生活向上に対する「獲得感」に集まる注目
中国の各種メディアは、毎年3月の両会(全人代、および全人代と同時並行で開かれる政治協商会議)の時期になると、両会に合わせて人々が注目している言葉が何かを調査している。ある中国メディアの調査によると、過去10年余を通じて最も人々の関心を集めた言葉の中に、食品安全、反腐とならんで、「房価(住宅価格)」、「物価」が挙げられている。住宅価格が高すぎて、一般庶民は家を買えず、無理に買うと「房奴」、住宅の奴隷になってしまうと言われてきた。「房奴」は、いまや新語・流行語の古典だ。
本年の両会時、人民網が行ったネット民調査では、1位「社会保障」、2位「住民所得」、3位「医療改革」、5位「教育の公平」、6位に「住宅」が挙げられており、15年以来のデフレ傾向も反映して、「物価」そのものへの言及はないものの、やはり生活向上に対する「獲得感」、何かを獲得したという満足感を得ることに注目が集まっている。
消費者物価(CPI)、特に食品価格が高騰した2010―11年、価格高騰に対する庶民の怨嗟を表した象徴的な表現が、これも、今では流行語の古典とも言うべき、「算(蒜)你狠、逗(豆)你玩,将(姜)你軍」という3つの対句だった。「算你狠(むごいことをする奴だ)」は算(スワン)を同じ発音である蒜(ニンニク)にかけており、同様に「逗你玩(おまえをからかう)」は逗(ドウ)を豆に、「将你軍(おまえを窮地に陥れる)」は、将(ジアン)を姜(しょうが)にかけてしゃれたものだ。人々の食卓によく載る豚肉価格の高騰は「猪堅強(強靭な豚)」と呼ばれ、特に人々の怒りの対象となった。もともと2008年の四川大地震の際に、成都で瓦礫の下から36日ぶりに生還した豚を人々はこう呼んで、食に供することなく動物園で余生を送らせようとした。発見された当時はやせ細っていたが、2年後一般にお目見えした時には、丸々と太っていたことから、「猪堅強」で豚肉価格の高騰に対する怒りを表した。
腐敗汚職を象徴する「1国2制度」ならぬ「1家両制」
腐敗汚職に関する流行語は、習主席の「打虎拍蠅」、「虎も蠅もたたく」という汚職摘発の決意発言を契機に、近年増加している。「打虎拍蠅」は、上記2016年両会でのネット民調査でも、第4番目の注目事項に挙げられた。周永康らに代表される大物もさることながら、地方で農地収用などの大きな権限を持ち、何億元という汚職をしている一般の役人に対する庶民の怒りも大きく、人々はこれを「虎蠅」の「小官巨貪(貪は不正に金銭をむさぼる)」と呼ぶようになった。さらに2014年、山西で7名の省幹部の腐敗が短期間に相次いで発覚したことを契機に、「塌方式腐敗(塌は倒れるの意)」、能力があり業績を挙げている役人に限って腐敗している「能人腐敗」、夫婦の片方が役人で、もう一方がビジネスを行い、家族ぐるみで汚職している「1国2制度」ならぬ「1家両制」等、これらは腐敗汚職の新たな展開、特徴を示している。
ネットを通じて自然発生的に出てきた流行語を当局が利用する例として、連載「ネット流行語を通して見る中国社会」では、昨年の習主席年頭賀詞の中で使われた「点赞」や「蛮拼的」を紹介したが、本年の年頭賀詞でも、「世界那么大」「朋友圏」が使用された。「世界那么大」は、2015年4月、河南省の中学教師が辞職申請書に書いた10文字だけの辞職理由、「世界那么大,我想去看看」、「かくも広い世界を、少し見に出かけたい」が、ネット上で史上最も本人の気持ちよく表現した簡潔で美しい辞職理由だとブレークしたもの、「朋友圏」はSNSなどでよく使われる「友達の輪」だ。習主席はこれらを年頭賀詞の中で、気候変動などのグローバルな問題に中国外交が適切に対応していることを主張する文脈の中で使用している。上述、ネット民の関心が集まる、生活面での「獲得感」も、習主席が最近、様々な場面で多用しているものだ。
※次回は、7月31日(日)の掲載を予定しています。