今や多くの国にとって、中国は、最大あるいは2、3番目の貿易相手国。政治的にもその国際社会への影響力が増す中で、各国にとって、中国語の重要性は増している。日本人にとっても、中国語を少し学んで、多少なりとも理解できると、様々な局面で便利なことは間違いない。本連載は、中国通の財務省OBとして知られ、現在は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の独立取締役も務める金森俊樹氏が、特別な「中国語入門」講座をお届けする。今回は、「簡体文字」の功罪について見ていきたい。

「國」→「国」に代表される簡体字化

中国語を学習する日本人を悩ます問題に簡体文字がある。その歴史は古く、19世紀半ば、清朝時代の太平天国にまで遡る。識字率を高めるため、公文書などで100以上の簡体文字を使用したと記録されており、最も有名な簡体文字化は、「國」を「国」と表記したことだと言われている(百度百科)。しかし、文字の簡体化の動きが本格化するのは、1949年中華人民共和国成立後だ。香港、台湾ではなお、複雑な伝統的繁体文字が使われている。

 

簡体文字は漢字の象形文字としての歴史を無視したもので、中国の伝統文化の継承という面で悪影響が生じるおそれがあり、好ましくないとの批判が絶えない。日本人としても共感するところがあり、また実際問題としても、簡略化したために、もともとは別の文字だったものが同じ表記になってしまい、混乱するという面もある。

 

たとえば、「乾」も「幹」も簡体文字では「干渉」の「干」と同じ表記、しかも「乾」と「干渉」の「干」は発音、声調が全く同じ、「幹」の「干」は声調が異なる。「発」、「髪」は、声調は異なるが、簡体文字では同じ「发」となる。簡体文字導入時、できる限り、象形文字の特性、安定性、実用性と適切な芸術性を維持すること、特に「述而不作」、先人の知恵を尊重し、新しい考えを持ち出さないという原則の下に、すでに世俗的に使用されている文字や書道家の文字をベースにして、文字を簡略化する方針が採られたが、実際には、昔のいかなる文献・資料にも使われたことがない新しい造語が少なからず見られるという(互動百科)。

慣れると、確かに書きやすく合理的

しかし実は、日本語の漢字の表記は、簡体文字と繁体文字の中間的な性格が強い。また、世俗的に使われている文字、書道家の流麗な文字が参考にされていることもあってか、実際慣れると、確かに書きやすく合理的にできている。もともとの導入の目的は、建国初期、表記をやさしくして広く教育を行き渡らせることにあったと思われる。

 

実際、なお繁体文字を使用している香港で、子供が漢字を覚えるのに大変な労力をかけていることを見ると、簡体文字にそうした効果はあったのかもしれない。簡体文字は教育普及にどの程度貢献してきたのか否か、ひいては、簡体文字の導入と中国の経済成長との間に何らかの相関があるのか、面白いテーマだ。

 

※次回は、8月7日(日)の掲載を予定しています。

 

 

本稿の記述は、必ずしも学問的裏付けがあるものではありません。また、簡体文字は原則、対応する日本語漢字で表記し、中国語発音の表記は、本来不可能で行うべきではありませんが、便宜上カタカナ書きとしました。

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