ある日突然、老親が緊急搬送で入院という事態が起こります。介護は毎日のことなので、使命感だけでは長続きはしません。10年以上、仕事をしながら父母の遠距離介護を続けてきた在宅介護のエキスパートは、「介護する人が幸せでなければ、介護される人も幸せにはならない」と訴えます。入院や介護に備え、知っておきたい制度やお金の話から、役立つ情報、具体的なケア方法までを明らかにします。本連載は渋澤和世著『親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…』(プレジデント社)から抜粋し、再編集したものです。

家族の代表者であるキーパーソン選びは慎重に

主たる介護者とキーパーソン、何が違うのか

 

簡単に説明すると、主たる介護者というのは直接、身体的なサポートをする人のこと、キーパーソンというのは、介護サービス事業所や病院との契約や対応の窓口となる人です。ケアマネージャーへの依頼は必ず、このキーパーソンが行い複数からアポイントをとることは避けてください。ケアマネージャーも誰の依頼を優先すれば良いのか困ってしまいます。必ずしも同居をしているとか、長男・長女である必要はありません。

 

キーパーソンは家族の代表者。入院した際、病状説明を聞き、その内容を他の家族に伝達をする。病状急変時や死亡時に連絡を受けたりもします。キーパーソン単独で意思決定をする場面や契約印を押すことなどもあり責任が伴います。しっかりと対応できることが素質として大切になります。ただし、様々な場面で家族全員の合意があることが好ましいです。主たる介護者は配偶者でキーパーソンは子、もしくは両方の役割を同居の子が行う場合が多いかもしれません。

 

介護は実子が基本の時代

 

介護保険制度が施行され、女性の就労が増加している現在、介護に対する意識は変化しています。一昔前の時代のように嫁が義父母を看る義務もないですし、その逆もありません。人生100年時代と言われ、介護年数も年々延びてきています。

 

年金や貯蓄など資産を把握する必要性や介護事業所との契約など、義理の関係では入り込むことが難しい問題が以前よりも増えているのです。親との関係や現在の環境を考慮した上で、男女や産まれた順番に関係なく、実子が介護の責任を持つというのが現在の主流です。

 

増えている男性のUターン

 

早期退職や定年をきっかけに、地方の親を介護するためにUターンを決意する男性が増えています。これも実子が介護をすることが定着している表れです。妻も自身の親の介護がある場合も多く、一緒についていくのではなく、現在の住まいに残るなど別居になるケースがほとんどです。濡れ落ち葉という定年後の男性を皮肉る言葉を吹き飛ばすには、Uターンで最後に親と一緒に過ごすという選択もひとつの案として良いのではないでしょうか。

 

きょうだいでの介護の問題、お薦めは時給制

 

きょうだい間で合意がとれれば、介護の負担時間により、親のお金から時給としていくらか受け取るのも公平性が出ます。介護をしている間は、自分の生活が不自由になります。外出や旅行も困難ですし、外で働けばお金が入ってくるのに介護で働けないのなら生活を売っているのと同じです。

 

施設なら順番で面会に訪れて対価を受け取る、在宅介護ならその家庭に生活費を払った方がスムーズです。大事にお金をとっておいても遺産相続するのだから、最初から介護のときに分けても良いという考えです。

 

介護に非協力的なきょうだいほど「親のお金をそんなふうに扱うなんて不謹慎」、「大変なら施設にすれば」とか、介護者の葛藤を理解せず「親を大切にしてね」「長生きしてね」とか無神経なことを言います。介護者は優しくしたいし大切にしたいけど、ときにやるせなくなり暴言等を吐いてしまい後悔を繰り返しているものです。家族の介護もタダではない、早めの相談と分かち合いが家族のコミュニケーションを円滑にします。

 

エピソード

 

主たる介護者のお話です。会社員というのは、始業時間や就業時間、会議や昼休みなど決められたスケジュールの中で1日を過ごしていました。このような環境だった人はとても約束時間に几帳面です。通所介護のひとつであるデイサービスは、利用者ごとにお迎え時間の目安があるのですが、特に会社員だった男性は、お迎え時間に準備して親とともに外で待っているケースが多く見られます。もちろん、善意でお待たせしてはいけないと思っているからです。

 

しかし、他の利用者の準備や道路状況で約束の時間ピッタリに到着することばかりではありません。むしろずれることの方が多くあります。事業者側としては、家の中で待っていてくれれば良いのにというのが本音です。

 

「遅いじゃないか」とクレームが出るのは、会社員出身者の男性介護者に多い傾向が実際にあります。こういう男性は、昼食はきっちり12時にとか融通が利かず、自らの決め事で自らを追い込むことが多くなりがちです。後の予定との調整もあるかと思いますが、多少ずれたとしても許すくらいの気持ちを持つことも大切です。

 

渋澤 和世
在宅介護エキスパート協会 代表

 

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