新語、外来語を漢字だけでどう表すか?
漢字文化圏であった韓国、ベトナムの言語はラテン文字化され、漢字はほとんど使われていない。日本語もひらがな、カタカナが入り混じっている。純粋に漢字のみを使用しているのは中華圏だけだ。漢字のラテン文字化である拼音は発音記号の位置付けで、特に外国人学習者は、正確な発音を習得する上で、拼音をしっかり学ぶことが必須だが、漢字に取って代わるものではない。実際、パソコンで簡体文字が打てない場合に、拼音で文章が表記されることがあるが、ローマ字表記した日本語文章のようなもので、きわめて読みにくい。
そこで、国際化、情報化の中で入ってくる多くの新語、外来語をどう表すのかという問題が生じる。基本的に、意味からのアプローチと発音からのアプローチがある。たとえば、アクリルガラスは「有機瑠璃(ガラス)」、または「亜克力」と訳されるが、前者が意味から、後者が発音(この漢字でアクリルに似た発音になる)から漢字をあてはめたものだ。
Eメールは当初、発音から「伊妹儿」とされていたが、現在は「電子郵件」が一般的だ。Eメールがまだ一般的でない時は、「伊妹儿」がしゃれた感じと見られ多用されていたが、今はむしろ野暮ったいと受け止められているようで、意味的に然るべき漢字になった。コンピューターウイルスを「電脳病毒」、テロリストを「恐怖分子」、李克強首相が唱える経済政策「リコノミクス」を「李克強経済学」、「アベノミクス」を「安倍経済学」と意訳しているのはわかりやすい。
アクリルも「亜克力」では何のことかわからず、チョコレート(功克力、これも発音から)の一種と間違う者もいるとして、あまり受けがよろしくない。
「意味」と「発音」を両立する巧妙なアプローチの例
基本的には、当該単語で表される事象が広く知られるに従い、発音ではなく、意味的に対応する漢字に置き換わる傾向があると言ってよいのではないか。ところで、意味と発音の両方のアプローチを両立させようとする模索は巧妙だ。
「ハッカー」を「黒客」とした例はその典型で、まさに意味的に「黒い招かざる客」、発音も「黒(ヘイ)客(カー)」でハッカーに近い。「ブログ」→「広範な利用客」→「博(ボー)客(カー)」も秀逸だ。かつて破たんしたリーマンブラザーズは「雷曼兄弟」、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立、人民元のIMF特別引き出し権(SDR)構成通貨入りで、中国が挑戦しようとしているとされるブレトンウッズ体制は「布雷頓森林」、各々、「雷曼(レイマン)」「布雷頓(ブレイドン)」を発音、「兄弟」「森林」を意味から表記したもの、国際金融パーソン必須用語だ。中国でも人気のある「ユニクロ」は「優衣庫(ヨウイクー)」、昨年9月、習主席訪米時に300機購入の大型契約が明らかになったボーイングは「波音(ボーイン)」、これらも発音と意味(またはイメージ)からのアプローチで面白い。
少し前になるが、日本で「ホリエモン」が話題になったことがあった。中国ではこれを「活力門」と表記した。ホリエモンと言えばライブドア、「ライブ」が「活力」で、「ドア」が「門」、しかも「活力門」を中国語読みすると「フオリ―メン」、なんとなく「ホリエモン」に近い発音になる。「ミニ(迷你)スカート(裙子)」、「迷(ミー)你(ニー)」と発音から漢字をあてはめているが、ミニスカートは「你(あなた)を迷わせる」ということだろうか。
※本連載は原則、毎週日曜日に掲載していく予定です。