今や多くの国にとって、中国は、最大あるいは2、3番目の貿易相手国。政治的にもその国際社会への影響力が増す中で、各国にとって、中国語の重要性は増している。日本人にとっても、中国語を少し学んで、多少なりとも理解できると、様々な局面で便利なことは間違いない。本連載は、中国通の財務省OBとして知られ、現在は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の独立取締役も務める金森俊樹氏が、特別な「中国語入門」講座をお届けする。今回は「了」が持つイメージ、そしてロシア語との類似性などを見ていきたい。

文法的に習得が最も難しいと言われる「了」

中国語で使用する「了」にはいくつもの機能があり、これを習得することは文法的に最も難しいと言われている。筆者の経験では、最初に「了」は動作の完了、過去を表すと教えられるのでわからなくなることが多い。それも間違いではないが、「状況の変化」を表すと考えた方がわかりやすい場合が多いように思う。

 

たとえば「没有了」、「没有」は「ない」だが、「了」によって「あったものがなくなった」というニュアンスになる。これは過去とか完了というより、状況の変化を表わすと捉えるべきだ。「我50歳了」、私は50歳になった、これも年齢が変わったという状況の変化と解することができる。

 

 

ロシア語の完了体も「状態の変化」を示すことが多い

ところで、まったく別の言語になるが、筆者もかつて仕事で使っていたことがあるロシア語では、すべての動詞に完了体と不完了体があり、その用法もやはり複雑で、ロシア語文法の中で、その習得が最も難しいと言われている。完了体は「点」のイメージ、不完了体は「線」のイメージにたとえられることが多い。

 

たとえば、「(窓を)閉めなさい」という命令を不完了体の動詞を使って言うと、「閉める」という一連の動作のイメージが強く出て、相手にその動作を強いているようなあまり丁寧でない印象になる一方、完了体を使うと、窓を閉めた後の状況変化のイメージだけが出るので丁寧な感じになる。

 

したがって、通常は、完了体の動詞の命令形を使うのが無難だと教えられたことを覚えている(もちろん、動詞の種類、使用する状況によって、一概には言えないと思われるが)。

 

いずれにせよ、このように、ロシア語でも完了体は「状況の変化」を示すことが多い。この点は、ロシア語言語学者の間でも、かなり以前から、ほぼ共通の認識になっていると聞く。語源的にまったく異なるであろうふたつの言語での、こうした偶然の類似性はきわめて興味深いと言うべきだろう。

 

ロシア語は完了体、不完了体の区別、複雑な格変化を有することに加え、動詞は主語が1人称単数(複数)か、2人称単数(複数)か、3人称単数(複数)かによって、一定の変化をするが、特に「行く」「来る」といった日常頻繁によく使われる単語に限って大きく不規則変化し、その用法も難しい。

 

中国語も、「上」「下」「来」「出」といった単語をどう使いこなすか難しく、特に日常会話が上達するかどうかの鍵になる。日常的な単語であるだけに、より広範かつ柔軟に使われるということだろうが、この点でも両言語には類似性がある。

 

※本連載は原則、毎週日曜日に掲載していく予定です。

 

 

本稿の記述は、必ずしも学問的裏付けがあるものではありません。また、簡体文字は原則、対応する日本語漢字で表記し、中国語発音の表記は、本来不可能で行うべきではありませんが、便宜上カタカナ書きとしました。

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