協力会社を復旧させるだけじゃない。その後の役割
朝倉は言う。
「復旧に行くと、人間は仕事をしたいんだなとつくづくわかる。人間って仕事がないほどつらいことはないわけです。機械が壊れても、ぼーっとしている人はいない。ふだんなら掃除しないけれど、布で機械を一生懸命拭いたりする。
何かで貢献したいんですよ。保全マンが洗濯するのも人間の本能ですよ。トヨタの作業服だけじゃないんです。被災した人、他社の人の服も洗って干すわけです。誰に言われなくとも自分からやる。被災地に行くと、人間は何かで貢献したくなるんです。
トヨタでマスクを作ったり、フェイスシールドを作り始めたのも、じっとしていられないからです。ふだんは僕らもそんなことは考えないんですけれど、危機になったら、世の中のためになることをしたくなるんですよ。僕らは別にそうしたことまでは教育してません。だからこそ、うちの現場の人間は偉いなと思ってしまう」
ただし、中越沖地震の保全マンの姿を見た後、朝倉は怒った。
協力工場のラインが復旧した後、他社が抜け駆けして、在庫のピストンリングをすべて持っていってしまったと聞いたからだ。
そこで、体育館に部品を取りに来た人間を集めた。
「お前ら、大概にしてくれ。渡す順番はこの会社に判断してもらおうじゃないか。オレはトヨタは最後でもいいと思ってる。しかしな、これからあんたたちが抜け駆けしたと大声でみんなに言ってやるからな」
支援に行って、周りを見渡して、復旧が終わった後も、朝倉たちは残ることがある。それは、元のラインに戻しただけでなく、生産性を上げる指導をする場合があるからだ。
協力会社には規模の大小がある。大きな会社は被災してもつぶれることはない。だが、中小企業の場合は災害などの危機が原因で経営が傾くことがある。設備や機械を直しても会社が傾いてしまったら部品が手に入らなくなる。
部品をつなぐとは、複数の仕入れ先をマップに載せるだけでは足りない。仕入れ先が成長するようアシストすることも含まれる。トヨタの危機管理とは幅の広い仕事だと言える。ふつうの会社はここまで面倒は見ないだろう。
朝倉はこう考えている。
「お金をあげるわけにはいかない。それは利益供与になる。ムダな在庫を圧縮したり、リードタイムを短くして、生産性を上げる。特に新型コロナ危機は長引いてますから、体力をつけるための応援を始めています。新型コロナ危機は、まだ出口が見えないわけでしょう。そういうところをやっていかんと」
野地秩嘉
ノンフィクション作家