「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

猫年齢早見表は猫20歳(人間で96歳)まで

先代の猫と比べると

 

グレはわたしにとり2代目の猫だ。先代の猫は、下町の猫好き一家で生まれた。この子はメスのトラネコだったので、「メトラ」と名付けた。ちなみに、グレはグレーの毛色だったので「グレ」と名付けた。猫好きの割には思い入れのない名前をつけるわたしだ。

 

先代の猫は、メッちゃんの愛称でみんなにかわいがられた実に楽な猫だった。人懐こくて、甘えん坊でわたしのお腹の上で100回以上ごろごろ言いながらもみもみする。「もういいから」というと、今度はざらざらした舌で顔をぺロペロなめはじめる。人間と同じで、愛情たっぷりに育てられた子は、おっとりしている。しかし、2代目のグレは違う。

 

顔を寄せると、なめるどころか噛む。しつこく触ろうものなら、本気でガブリ。甘噛みなんかではない。彼女は本気だ。そのせいで、わたしの手や顔はいつも傷だらけのジョージ。それでも許されるのが猫だ。

 

先代のメッちゃんが20歳まで生きたので、グレもそのくらいだろうと勝手に思い込んでいたが、ある日、机の上にきちんと前足を揃えて座っているはずのグレの右足が、少し曲がっているのに気づきはっとした。

 

「あれ? グレちゃん、なんか急に年をとったみたい」

 

そう言えば、階段を猛スピードで駆け上がっていたグレだが、最近はスピードが落ちているような気がする。あわててネットで調べてみると、猫の平均寿命は15歳。猫年齢早見表によると、猫13歳は人間の68歳だそうだ。

 

そうか、わたしが気づかぬ間に、グレも前期高齢者になっていたのだ。

 

美しい猫にはとげがある

 

ちなみに、この猫年齢早見表は、猫20歳(人間で96歳)で終わっている。

 

グレも年をとり、以前ほどアクティブでなくなったせいか、いつもわたしがいる1メートル以内にいるようになった。そして、わたしの行動を観察している。

 

日中、わたしが出かけているときは、ひとりで淋しいのか、1階に行って玄関でゴロンとしていたり、妖怪のそばにきているようだ。

 

妖怪がそのときとばかりに、体を撫でると、1回だけにしておけばいいのに、2回、3回と撫でるものだから、ガブリと噛まれる。そのたびに、

 

「あの子は猫ではない。怪獣だ! あんな凶暴な猫は見たことがない」

 

と叫ぶ。

 

そして、懲りずにまた触ろうとするので、また噛まれる。

 

薔薇と同じで、美しい猫にはとげがある。

 

 

 

 

松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事

 

【関連記事】

税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ

 

親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「儲かるなら自分がやれば?」と投資セミナーで質問すると

母の老い方観察記録

母の老い方観察記録

松原 惇子

海竜社

『女が家を買うとき』(文藝春秋)で世に出た著者が、「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。 おしゃれ大好き、お出かけ大好…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
TOPへ