危機管理リーダーがあるべき姿を学べる「ザ・ウルフ」
豊田市にあるトヨタ本社に事務3号館と呼ばれるビルがある。1階にある大部屋は机を並べても優に100人は仕事ができる。
事務3号館の大部屋に新型コロナ危機に対応するため、生産・物流の対策本部ができたのは2月4日だった。
なお、対策本部は生産現場だけではなく、調達本部、総務・人事部門でも発足する。しかし、もっとも人数が多く、また解決する課題が多いのは生産・物流現場のそれだ。
対策本部だからといって、看板を掛けるわけではない。部屋には机、事務用品、壁に日本地図、世界地図を貼り付け、大きな白板とテレビ会議システムがあるだけだ。
今回のコロナ対応の危機対策会議には調達、総務・人事の本部長、担当者らはリモートで参加した。生産・物流だけでは対応できない課題も多かったからだ。
本部の会議を仕切る責任者で座長は朝倉正司。
危機管理のプロである。危機管理人の朝倉と話していると、「似ている」と思う人物が頭に浮かぶ。名優、ハーベイ・カイテルが演じた危機管理のプロ「ザ・ウルフ」だ。ザ・ウルフはクエンティン・タランティーノ監督がカンヌでパルムドールを受賞した映画『パルプフィクション』(1994年)に出てくる。
ザ・ウルフはジョン・トラボルタ演じる殺し屋とその相棒が死体の処理に困っている時、タキシード姿でやってくる。
口ひげを生やしタキシードを着たザ・ウルフは「ホームパーティをやっていたから」とうそぶき、ふたりに話を聞き、状況を把握すると、瞬時に指示をして処理してしまう。その間、まったく焦ったり、怒鳴ったりはしない。
「コーヒーを1杯頼む」と悠揚迫らざる態度で事にあたる。処理が終わると、「急いでいるから」と銀色のスポーツカーに乗ってアクセルをふかして走り去ってしまう。
ザ・ウルフは危機における情報の把握が早く、ソリューションの指示が的を射ている。絶対にあわてない。
危機管理におけるリーダーの姿勢を知りたければ、本を読むよりも、『パルプフィクション』を見て、ザ・ウルフの仕事のやり方と態度を見た方がいい。
話は戻る。
各セクションからの参加者はザ・ウルフ朝倉に状況を報告する。それを聞いた朝倉は状況を把握して片っ端から指示を出していく。
生産現場の対策本部だから、主な議題は工場の生産状況と部品の供給、サプライチェーンの保持についてである。他に感染予防対策も議題に上がるが、それはすぐにプランができる。一方、部品の数は多い。関係者が多くなるから、対策を立てるにしろ、時間と手間がかかる。