2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けた。ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字を計上するなか、トヨタ自動車は2020年4月~6月期の連結決算(国際会計基準)では、当然のように純利益1588億円の黒字を叩き出した。しかも、2021年3月期の業績見通しは連結純利益1兆9000億円と上方修正して、急回復を遂げる予想だ。トヨタ自動車はいったい何を行ったのか、そして命運を分けたものは何だったのかを連載で明らかにする。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

危機管理リーダーがあるべき姿を学べる「ザ・ウルフ」

豊田市にあるトヨタ本社に事務3号館と呼ばれるビルがある。1階にある大部屋は机を並べても優に100人は仕事ができる。

 

事務3号館の大部屋に新型コロナ危機に対応するため、生産・物流の対策本部ができたのは2月4日だった。

 

なお、対策本部は生産現場だけではなく、調達本部、総務・人事部門でも発足する。しかし、もっとも人数が多く、また解決する課題が多いのは生産・物流現場のそれだ。

 

2020年2月4日、事務三号館のお部屋に新型コロナ危機に対応する対策本部ができたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
2020年2月4日、事務三号館のお部屋に新型コロナ危機に対応する対策本部ができたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

対策本部だからといって、看板を掛けるわけではない。部屋には机、事務用品、壁に日本地図、世界地図を貼り付け、大きな白板とテレビ会議システムがあるだけだ。

 

今回のコロナ対応の危機対策会議には調達、総務・人事の本部長、担当者らはリモートで参加した。生産・物流だけでは対応できない課題も多かったからだ。

 

本部の会議を仕切る責任者で座長は朝倉正司。

 

危機管理のプロである。危機管理人の朝倉と話していると、「似ている」と思う人物が頭に浮かぶ。名優、ハーベイ・カイテルが演じた危機管理のプロ「ザ・ウルフ」だ。ザ・ウルフはクエンティン・タランティーノ監督がカンヌでパルムドールを受賞した映画『パルプフィクション』(1994年)に出てくる。

 

ザ・ウルフはジョン・トラボルタ演じる殺し屋とその相棒が死体の処理に困っている時、タキシード姿でやってくる。

 

口ひげを生やしタキシードを着たザ・ウルフは「ホームパーティをやっていたから」とうそぶき、ふたりに話を聞き、状況を把握すると、瞬時に指示をして処理してしまう。その間、まったく焦ったり、怒鳴ったりはしない。

 

「コーヒーを1杯頼む」と悠揚迫らざる態度で事にあたる。処理が終わると、「急いでいるから」と銀色のスポーツカーに乗ってアクセルをふかして走り去ってしまう。

 

ザ・ウルフは危機における情報の把握が早く、ソリューションの指示が的を射ている。絶対にあわてない。

 

危機管理におけるリーダーの姿勢を知りたければ、本を読むよりも、『パルプフィクション』を見て、ザ・ウルフの仕事のやり方と態度を見た方がいい。

 

話は戻る。

 

各セクションからの参加者はザ・ウルフ朝倉に状況を報告する。それを聞いた朝倉は状況を把握して片っ端から指示を出していく。

 

生産現場の対策本部だから、主な議題は工場の生産状況と部品の供給、サプライチェーンの保持についてである。他に感染予防対策も議題に上がるが、それはすぐにプランができる。一方、部品の数は多い。関係者が多くなるから、対策を立てるにしろ、時間と手間がかかる。

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※本連載は、野地 秩嘉氏著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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