「私たちにとって危機は変化のひとつ」と考える
こうした状況のなか、トヨタの対策チームは動いた。主な担当の人間は次の通りになる。
生産部門のトップは執行役員でチーフ・プロダクション・オフィサーの友山茂樹。
実際に現場を仕切るのは「トヨタの危機管理人」朝倉正司。朝倉は生産本部とTPS本部の本部長だ。TPS(Toyota Production System)とはトヨタ生産方式のことで、同社の改善、原価低減のツールである。
朝倉を助けるのがTPSを同社の内外に広める生産調査部のトップでTPS本部副本部長の尾上恭吾。
さらに、現場一筋の男、チーフ・モノづくり・オフィサーの河合満は危機になると現場の精神的支柱として生産現場(工場)を見回る。
本連載は主に、この4人と、TPS本部出身で現在は情報システム本部長の北明健一に取材した。
加えて、トヨタの生産現場の保全を担当する男たち、岡崎弁丸出しの上郷工場長、斉藤富久、同工場の土屋久、保田浩生、高橋洋一。また、牛島信宏(生産調査部)、泉賢人、八尋新(ITマネジメント部)にも話を聞いた。
友山は「トヨタでは危機を次のように理解しています」と語る。
「私たちにとって危機は変化のひとつです。しかも、大きな変化のことです。ですから、災害でも、リーマン・ショックのような経済危機でも、そして、今回のような感染症による危機でも大きな変化が来たと認識して、対応すればいい。
私たちはトヨタ生産方式(TPS)にのっとって仕事をしています。TPSが真価を発揮するのは、世の中が大きく変化する時なんです。環境の変化に柔軟に迅速に対応する方式ですから、日頃、やっている仕事の仕方が問われると思っています」
危機管理とは、すでに起こってしまった災害などのトラブルに対して、事態が悪化しないようにマネジメントして復旧を目指すことだ。
一方、リスク管理という言葉がある。こちらは、起こりうる災害などのトラブルに備えておくための活動をいう。
友山の説明によれば、トヨタではトヨタ生産方式を利用して平時のリスク管理を行い、危機が来ると、同方式の延長線上の行動を起こす。危機管理、リスク管理の双方に同方式が活用されている。