軒並み赤字なのに、トヨタだけが黒字だった
現在でこそトヨタは何があってもびくともしない会社のように思われている。新型コロナ危機になる前の2019年3月期(2018年4月~2019年3月)の連結決算を見ると売上高は前期より2.9パーセント増えて30兆2256億円だった。営業利益は同じく2.8パーセント増の2兆4675億円。売り上げが30兆円を突破した企業は日本では初めてのことだった。
新型コロナウイルスが蔓延し、世界の自動車会社が軒並み大きな赤字を出しているなかでもトヨタだけは2020年上半期の決算を黒字にした。さらに同社の中国マーケットの状況を調べてみると新型コロナ危機以前よりも販売は伸びている。
世界中の企業は第三波の流行もあり、今もなお、危機のさなかにいる。業種にもよるが、大半の会社はロックダウン(都市封鎖)、休業要請、サプライチェーンの途絶、需要の減少などの影響を受け苦しんでいる。
特に苦しいのはメーカーだ。事務職であればリモートで仕事ができる。しかし、メーカーの生産現場はリモートというわけにはいかない。また、封鎖が解けて工場へ行けるようになったとしても、サプライチェーンが寸断され、原材料が入ってこなくなっていたら工場設備を動かすことはできない。
そして、メーカーの減産は他の産業にも波及する。製品ができなければ販売店は売るものがないし、商社、物流業は扱う商品がなくなってしまう。
新型コロナの危機はどこの会社にも同じようにやってきた。危機に際してはどこの会社も同じように立ち向かわなくてはならなかった。
そうした状況のなか、トヨタは100点満点とは言えないが、適確な危機管理と危機対応をした。他の会社とは違う考え方と手法で危機に対処したから、決算を黒字にすることができたのである。
本連載では危機に際して、トヨタの各セクションがどう動いて、危機を乗り越えようとしたかをまとめてある。
危機管理、危機対応についてはさまざまな本がある。だが、トヨタの危機管理を具体的に開陳したのは本連載が初めてだ。
だからといって、「オレは偉いんだぞ」と威張っているわけではない。
またやってくる危機に対処するための道しるべとして、もっとも適確に対処した例を知らせたいのである。組織、個人を問わず、本連載のなかから、真似ができると思ったところは誰もが真似をすればいい。
会社であれば危機対応ができるし、個人であれば危機に際して家計を赤字にせずに、生活を維持、発展させていくことができる。