もらっても迷惑?不動産の遺贈寄付のデメリット
Iさんが遺贈寄付するにあたって気になること、それはIさんの財産のほとんどが不動産であることです。「遺贈寄付したい協会や団体が不動産を果たして受け取ってくれるのか」ということが気になり始めました。
実は、不動産をそのまま遺贈寄付として受け取ってくれる協会や団体は限られます。土地の種類、形状、建物の状態などによって、そのまま使えるわけではないからです。不動産の場合、登記変更の手間も掛かります。
また、その不動産が取得時の価格より、遺贈寄付時の時価が上がっているとします。差額は譲渡益とみなされ、「みなし譲渡所得税」が課されます。法定相続人がいる場合、「みなし譲渡所得税」の課税先はなんと相続人になってしまうのです。Iさんには法定相続人がいませんので、遺贈寄付先の協会や団体に納税義務が生じる可能性があるのです。
遺産で社会貢献したいという善意であるにもかかわらず、これでは、遺贈寄付先にとってかえって負担になってしまいます。そこで、遺贈寄付ごとに国税庁長官の承認を得れば、みなし譲渡所得税が非課税になる特例(租税特別措置法第40条)もできました。「一般特例」「承認特例」の2種類がありますが、かなり厳しい要件となっています。
できれば、不動産は生前に換金しておくほうが良いのですが、その不動産が住まいや事務所の場合、売却するのは難しいでしょう。そこで、「換価型遺言」を作成するという方法があります。
「換価型遺言」は、「清算型遺言」とも呼ばれます。自分の死後、遺言執行者に不動産を換価してもらい、現金で協会や団体に遺贈寄付する方法で、遺言書にその旨を記載します。ただし、そのときの経済状況によって必ずしも不動産が売却できるとは限りません。
そこで、最近では、遺贈寄付の普及と浸透を図るため、「不動産査定取次サービス」を開始した「一般社団法人 全国レガシーギフト協会」のような団体もあります。会員になれば、無料で相談できるサービスもあります。Iさんはこういった協会を窓口として、まずは相談してみることにしました。
遺贈寄付は少々手続きが面倒に思われるかもしれませんが、Iさんのように相談サービスを利用したり、専門家のアドバイスを得たりすれば、難しいことではありません。
何より、Iさんが早めに取り組みを始められたので、準備も整えられ、Iさんの思いはいずれ叶えられることでしょう。我々も惜しみなくサポートしたいと考えております。
岡野雄志
岡野雄志税理士事務所
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