身寄りのない高齢者にとって自分の財産整理は重要な問題です。本記事では、岡野雄志税理士事務所所長の岡野雄志氏が、身寄りのない高齢者の終活について事例を交えて解説します。

昔縁のあった人への遺産相続はどうすればいいのか

実は、Iさんは一度だけ結婚したことがありました。別れた妻には遺産の相続権はありません。しかし、もし、別れた妻にIさんの子どもがいれば法定相続人となります。法定相続人には民法で「遺留分」という、最低限の遺産分割割合が保障されています。

 

Iさんと別れた妻には子どもはいませんでしたが、妻の連れ子がいました。妻の連れ子に相続権はありませんが、結婚したときにIさんはこの子を養子にしていました。妻と離婚した際、養子縁組も解消していましたが、一時は自分の子として育てていたわけですから、その子の将来も気になります。

 

養子縁組を解消した子にも、相続権はありません。法定相続人以外の個人に相続財産を譲りたい場合は、相続ではなく「遺贈」となります。また、亡くなる前に贈与契約を結んでいて、亡くなってからその贈与契約の効力が生じることを「死因贈与」といいます。いずれも相続税が課せられ、被相続人(亡くなった方)の一親等の血族や配偶者以外には、2割加算となります。

 

それでも、一度は親子の縁を結んだ子どもです。Iさんはどうしても気になっていたのでしょう。その子を自分が加入している保険の死亡保険金5,000万円の受取人にしていました。生命保険の受取人は、原則として配偶者と2親等以内の血族である法定相続人のみですが、養子縁組中に加入していた生命保険なら、可能なケースもあります。

 

なお、個人に遺贈寄付する場合でも、その個人が社会福祉事業、学校運営事業、公益事業などの事業者で、遺贈を受けた日から2年以内にその受贈財産を公益事業に使っていた場合、相続税は非課税になります。

Iさんが決めた「遺贈寄付」落とし穴が?

もう一つ、法定相続人の確認のほかに、遺贈寄付する場合、注意しておきたい重要な点があります。それは、「包括遺贈」か、あるいは「特定遺贈」か、ということです。

 

「包括遺贈」は、相続財産の全部あるいは一定の割合分を特定の受遺者(その財産を受け取る法人または個人)に遺贈することです。ということは、その財産に借金などの債務がある場合、受遺者は負の遺産も受け取ることになります。

 

一方、「特定遺贈」は、その名の通り、相続財産のうち特定の財産を遺言証書などで具体的に示し、特定の受遺者に遺贈することです。遺言で特定された財産をそのまま受け取る権利なので、負の遺産を背負うリスクは避けられます。

 

Iさんは、早速「財産目録」の作成と「公正証書遺言」の準備に取り掛かりました。しかし、Iさんには、もう一つ気になることがありました。

 

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