2025年、日本の中小企業の約半分にあたる127万社が「後継者不在」で、そのうちの約67万人の経営者が未対策で廃業の危機に直面しています。今回は、事業承継問題の実態を具体的な数字から見ていきます。※本連載は、植木康彦氏、髙井章光氏、榑林一典氏、宇野俊英氏、上原久和氏の共著『ゼロからわかる事業承継・M&A90問90答』(税務研究会出版局)より一部を抜粋・再編集したものです。
事業承継が必要な245万人のうち、半分以上が未対策
Q. 事業承継に取り組まねばならない中小企業はどのくらいあるのですか。また、その取り組み状況はどのようになっているのでしょうか。
A. 中小企業庁が公表した資料によりますと、約381万者の中小企業(2016年度調査)のうち、70歳以上の経営者は約245万人とされていますので、中小企業の約64%において事業承継が問題となっていると思われます(なお、2018年度調査では中小企業数は約358万者に減少しています)。
事業承継においては、親族に承継する場合、幹部従業員に対して承継する場合のほか、社外の第三者に会社や事業を譲渡する方法が考えられます。
後継者がいない企業は、最終的には社外の第三者へ譲渡する方法を検討することになりますが、上記約245万人のうち、約半数の約127万人において後継者が不在となっているようです。したがって、事業承継が必要な約245万者の半分以上がまだ事業承継の目途が立っていないものと思われます。
2025年、中小企業経営者の約67万人が「廃業の危機」
中小企業の経営者は年々高齢化しております。中小企業の経営者の年齢分布で一番多い年齢層は69歳となり、平均引退年齢である70歳に近づいています。2025年における70歳以上の経営者は約245万人とされており、さらに、そのうちの約127万人が後継者未定の状態となっていると言われています。
また、この127万人のうち、M&Aにより第三者へ承継する可能性がある中小企業経営者は約60万人といわれております。
したがって、約127万人から、M&Aの可能性のある約60万人を差し引いた残りの約67万人については、後継者はおらず、また第三者承継の可能性も低いことになるため、廃業の危機に現実的に面している状況にあるといえます。
「地方」のほうが高齢経営者の割合が高く、問題は深刻
この中小企業の経営者の高齢化は全国的な傾向となっており、特に大都市から離れた地方都市においてその傾向は顕著であり、深刻な問題となっております。
60歳以上の経営者割合について、秋田県では66.7%、島根県62.8%、佐賀県60.9%、北海道60.3%となっており、そのほかの地域においても、東北地方や九州、四国、中国地方において、高齢の経営者割合が極めて高くなっています。
このまま事業承継問題が解決できなければ、地方における中小企業は激減することとなり、その地域経済、地域住民の生活にその影響は直接に及ぶものになります。
したがって、中小企業の事業承継問題は、特に地方都市における対応が重要課題となっていると言えます。
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Ginza会計事務所
公認会計士・税理士
1962年新潟県柏崎市生まれ、明治大学商学部卒業
高野総合会計事務所パートナーを経て、Ginza会計事務所創立(代表)
現在は、事業再生、事業承継、M&A、財務・税務DD、価値評価、税務支援等の業務、及び経営者の参謀役に注力。
事業再生研究機構理事
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髙井総合法律事務所
弁護士
1992年司法試験合格、1995年第二東京弁護士会弁護士登録。あさひ法律事務所(現あさひ法律事務所、西村あさひ法律事務所)アソシエート弁護士勤務、須藤・高井法律事務所パートナーを経て、髙井総合法律事務所開設(代表)。
企業法務、企業組織再編実務、企業再建実務、中小企業関係実務など幅広く業務を行っているほか、『ケーススタディ事業承継の法務と税務』(ぎょうせい、2018年)など事業承継に関する書籍や記事を多数執筆。
現在、日本弁護士連合会日弁連中小企業法律支援センター副本部長、中小企業政策審議会臨時委員(経済産業省)、「事業引継ぎガイドライン」改訂委員会委員(中小企業庁)、事業引継ぎ支援事業の評価方針検討会委員(中小企業基盤整備機構)、日本商工会議所経済法規専門委員会委員など務める。
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OAG税理士法人
税理士
1965年山梨県生まれ。半導体商社勤務を経て、現在、OAG税理士法人マネジメント・ソリューション部部長、税理士。
専門誌への寄稿や講演活動のほか、経済産業省「新たな組織法制と税制の検討会」委員、「事業再生研究機構」理事、「全国事業再生・事業承継税理士ネットワーク」幹事などの委員を務める。
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株式会社UNO&パートナーズ
代表取締役
1989年株式会社三菱銀行(現、株式会社三菱UFJ銀行)入行。中小、中堅企業の法人融資を主に担当。1997年、事業会社に転じ、ベンチャー投資、M&Aを経験後、独立系のベンチャーキャピタルでフロント、バック部門を経験。2007年より安田企業投資株式会社(保険会社系ベンチャーキャピタル)でベンチャー投資、バイアウト投資に従事。
2015年7月独立行政法人中小企業基盤機構で事業引継ぎ支援事業全国本部プロジェクトマネージャーに就任(現任)。
2016年株式会社UNO&パートナーズ設立。
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上原公認会計士事務所
所長
公認会計士
関西学院大学商学部卒。2002年に北國銀行入行後、有限責任監査法人トーマツ、東京商工会議所に設置されている東京都事業引継ぎ支援センターの統括責任者補佐を経て2017年7月より中小機構中小企業事業引継ぎ支援全国本部のプロジェクトマネージャーに従事。
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