2025年には、日本の中小企業の約半分にあたる127万社が「後継者不在」になると予想されています。今回は、金融機関との間に「借金」が残った状態で従業員に会社を譲渡した場合の「経営者保証」の問題と解決策について見ていきます。※本連載は、植木康彦氏、髙井章光氏、榑林一典氏、宇野俊英氏、上原久和氏の共著『ゼロからわかる事業承継・M&A90問90答』(税務研究会出版局)より一部を抜粋・再編集したものです。
経営権の委譲後、「借金の保証」が残っていると…?
Q. 私は幹部従業員に社長の椅子を明け渡し、また、今後は企業経営からは離れ、余生を別のことをしてゆっくり過ごしたいと思っていますので、会社の全株式も後継者に譲っています。よって、会社との間には債権債務を含め、一切関係がなくなっています。
しかしながら、会社が金融機関から借りた借金の保証はまだ残っており、会社経営から離れている以上、保証も解消したいと思っています。どのような手続をとったらよいでしょうか。
A. 会社の経営から退いただけでなく、株式も譲渡して保有しておらず、会社に対して貸し借りも残っていないような場合には、今後の会社経営に携わらない状態となっていますので、できるだけ保証を解除することが望ましいと言えます。
包括保証をしていたような場合に、今後の新たな借入金については保証しない旨を金融機関に求めれば、包括保証の趣旨から退任後の借入金については保証は及ばないとする裁判例もあります。
また、そもそも後継者が経営者保証を承継しているような場合には、旧経営者の保証が残っていれば、保証が二重となっており、適切な状況とは言えません。「経営者保証ガイドライン」やその「特則」を根拠として、金融機関と協議をして、適切な対応を求めることになります。
「前経営者の保証」の取扱いは、金融機関と協議する
後継者が見つかり、社長の地位を譲っていても、株式を保有しオーナーとして後継者社長に指図ができる状況にあれば、まだ経営者としての立場にあり、経営者保証が残っていることもやむを得ない点もあります。
しかしながら、株式を含め経営権を全て委譲しており、会社を支配できる状況になく、また、会社との関係で貸し借りもないような場合には、保証を残しておくことが相当でない場合もあり、保証解除を会社とともに金融機関に求めていくことになります。
なお、このように会社経営から退いたことによって、経営者であることによって締結していた保証契約については前提がなくなってしまうことになり、包括保証契約となっていたとしても、退任後においては保証をしない旨を金融機関に申し入れていた場合には、退任後の新たな貸付等については保証は及ばないと判断した裁判例があります。
他方、後継者候補が幹部従業員である場合には、経営者保証の承継に抵抗が強くあり、このことで経営を継ぐことを決められない場合があります。
そのような状況下において、前経営者が自らの保証解除のみを金融機関に主張すれば、金融機関はますます後継者候補に対して保証の承継を求めていく可能性もありますので、前経営者としては、事業承継を円滑にまずは進めることを優先しながら、自らの要求を掲げることになります。
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Ginza会計事務所
公認会計士・税理士
1962年新潟県柏崎市生まれ、明治大学商学部卒業
高野総合会計事務所パートナーを経て、Ginza会計事務所創立(代表)
現在は、事業再生、事業承継、M&A、財務・税務DD、価値評価、税務支援等の業務、及び経営者の参謀役に注力。
事業再生研究機構理事
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髙井総合法律事務所
弁護士
1992年司法試験合格、1995年第二東京弁護士会弁護士登録。あさひ法律事務所(現あさひ法律事務所、西村あさひ法律事務所)アソシエート弁護士勤務、須藤・高井法律事務所パートナーを経て、髙井総合法律事務所開設(代表)。
企業法務、企業組織再編実務、企業再建実務、中小企業関係実務など幅広く業務を行っているほか、『ケーススタディ事業承継の法務と税務』(ぎょうせい、2018年)など事業承継に関する書籍や記事を多数執筆。
現在、日本弁護士連合会日弁連中小企業法律支援センター副本部長、中小企業政策審議会臨時委員(経済産業省)、「事業引継ぎガイドライン」改訂委員会委員(中小企業庁)、事業引継ぎ支援事業の評価方針検討会委員(中小企業基盤整備機構)、日本商工会議所経済法規専門委員会委員など務める。
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OAG税理士法人
税理士
1965年山梨県生まれ。半導体商社勤務を経て、現在、OAG税理士法人マネジメント・ソリューション部部長、税理士。
専門誌への寄稿や講演活動のほか、経済産業省「新たな組織法制と税制の検討会」委員、「事業再生研究機構」理事、「全国事業再生・事業承継税理士ネットワーク」幹事などの委員を務める。
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株式会社UNO&パートナーズ
代表取締役
1989年株式会社三菱銀行(現、株式会社三菱UFJ銀行)入行。中小、中堅企業の法人融資を主に担当。1997年、事業会社に転じ、ベンチャー投資、M&Aを経験後、独立系のベンチャーキャピタルでフロント、バック部門を経験。2007年より安田企業投資株式会社(保険会社系ベンチャーキャピタル)でベンチャー投資、バイアウト投資に従事。
2015年7月独立行政法人中小企業基盤機構で事業引継ぎ支援事業全国本部プロジェクトマネージャーに就任(現任)。
2016年株式会社UNO&パートナーズ設立。
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上原公認会計士事務所
所長
公認会計士
関西学院大学商学部卒。2002年に北國銀行入行後、有限責任監査法人トーマツ、東京商工会議所に設置されている東京都事業引継ぎ支援センターの統括責任者補佐を経て2017年7月より中小機構中小企業事業引継ぎ支援全国本部のプロジェクトマネージャーに従事。
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