最善策は認知症父の「隔離と言う名の車内放置」
しかし、わが家に、防護服などあるわけもなく、ゴミ袋でもかぶって行こうかと思ったが、大袈裟になるような気がしてやめた。まあ、気休めにしかならないだろうが、マスクを2枚重ねにして、でっかい消毒用のアルコールスプレイを持ってじーじを迎えにいったのであった。
玄関から出てきたじーじは、車いすに乗っている。通常の思考回路なら「なぜ? 車いす」と思うところだが、私の頭の中は「じーじコロナ疑惑」でいっぱいなので、口から出た言葉は……。
「味する?」
「えっ? なんじゃ」と、じーじ。
「朝ごはんの味した?」
「味はした……」
ひと安心したのもつかの間、
「黒川さん、足に力が入らないようで、歩けないとおっしゃっております」とスタッフさん。
へ? まさかと思ったが、車いすから立ち上がることもできない状態。やっと、車に押し込んでいただき、クリニックに向かおうと思ったが、まだ、指定の時間まで1時間30分もある。しかたがないので、いったん家に戻ることにしたのだが、その時に気が付いた。
じーじの体重は70㎏。
私一人では、じーじを車から降ろせるわけないじゃん!
駐車場で、同乗していようかもと思ったが、コロナ疑惑のじーじと1時間半も一緒にいるのは危険すぎる。窓を全開にして、その辺をぐるぐる走り回っていたほうがリスクは少ないかもとも思ったが、どちらにしても濃厚接触者になるのはまちがいない。
そこで、私が考えた最善策は隔離と言う名の、じーじ車内放置である。
車から降りられないので、仕方がない。気の毒ではあるが、じーじに車の中で待機してもらうことにした。脱水を起こしたらもっと大変なことになるので、わきの下をアイシング(冷やす)し、飲み物とティッシュの箱を差し入れて、
「気分が悪くなったら、クラクション鳴らしてね」
と告げて家の中へ。
数秒も経たないうちに、「ぷっぷ~(クラクション音)」。
「熱い」
よく見たら、車内には、お日様がサンサンと差し込んでいる。このままでは、じーじが干からびてしまうので、日陰に移動。心配なので数分置きに安否確認。
またまた、「ぷっぷ~(クラクション音)」。
「しょんべん……」
ひえ~~。無理~~~。そんなこんなであっという間に1時間半が過ぎクリニックへ出発。
駐車場に到着から連絡をし、看護師さんと二人がかりでじーじを車から降ろす。クリニックに入ると全員防護服姿で、マスクにフェイスシールド。テレビでしか見たことのない風景に、ますます私の頭は、じーじのコロナ疑惑が深まるばかり。
重装備の皆さんを見て、「私だけ、こんな無防備な状態でいいんかい!」と突っ込みたくなった。こんなことなら、ビニール袋をかぶってくれば良かったと後悔しながら、頭から消毒用アルコールをふりかけながら待合室で待つことに。
結果は、肺炎の疑いもなく、PCR検査の結果は「陰性」。とりあえず、めでたしめでたしだったのである。
黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者
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