死後に婚外子が発覚するのは、残された家族にとって非常にショッキングかもしれませんが、法律関係者の間ではさほど珍しくない話です。相続手続きの際には戸籍の洗い出しが必須のため、認知された子どもの存在は隠し通せないのです。また逆に、相続人の死を知った「認知していない子」から、死後認知の訴えを起こされることもあります。相続問題の解決に定評がある、弁護士法人菰田総合法律事務所の國丸知宏弁護士が事例をもとに解説します。

子どもがいれば、きょうだいは「相続権なし」

3週間後、戸籍の調査が完了しました。その結果、長兄の言葉通り子どもの存在が判明しました。

 

筆者:「お兄さんの件ですが、お話の通り、お子さんがいらっしゃいました。息子さんです」

 

A子:「では、兄のいっていたことは本当だったんですね…」

 

筆者:「はい。お兄さんは24歳のときにお子さんを認知しています。お子さんのお母さんはお兄さんと同じ年齢で健在です」

 

A子さんは驚いた様子でしたが、覚悟したように言葉を続けます。

 

A子:「…兄の会社が心配です。相続にはどんな影響が出るのでしょうか?」

 

相続には「順位」というものがあります。配偶者の方は常に相続人になるのですが、それ以外については、まずは子ども、子どもがいなければ両親、両親もいなければきょうだいへ、といった具合です。

 

これだけの単純な決まりではありますが、なによりこれが重要なのです。

 

【相続人の順位】

●配偶者は常に相続人

●その他の相続人については

 ①子
 ↓
 ②子がいなければ両親
 ↓
 ③子も両親もいなければきょうだい

の順で相続する。

認知=「法律上、自分の子どもと認める」こと

この相続人の順位をもとに、A子さんの事例について考えてみましょう。

 

まず兄は結婚していませんので「配偶者なし」となります。次にそのほかの相続人ですが、ここで子どもの「認知」が問題となります。

 

「認知」とは、「法律上、自分の子とされていない者」について「法律上、自分の子であると認める」ことをいいます。認知をすることによるいちばんの変化は、「認知によりその子が相続人になること」です。

 

今回のケースでも、兄が認知をしていた「子ども」が、兄の相続人になり、きょうだいは相続人の立場から外れます。

 

その事実について説明したところ、A子さんは言葉を失うほど驚いた様子でした。

 

A子:「えっ、そうなんですか! でも、一度も会ったこともないんですよ。それでも相続人になるのでしょうか…?」

 

筆者:「お兄さんがお子さんを認知したことにより、その方が相続人となります」

 

A子:「つまり、私たちきょうだいは、相続人のくくりから外れてしまうと」

 

筆者:「そういうことになります。ごきょうだいでは、そのお子様に順位で負けてしまいますので…」

 

A子さんは、戸惑いを滲ませた表情で言葉を続けます。

 

A子:「財産がほしいというわけではないんです。でも、一度も兄に会ったこともない子に兄が苦労して築いた財産が全部渡ってしまうなんて…。どうしても信じられません…」

 

「長年にわたり、互いに支え合ってきたきょうだいに、兄の遺産が一切回ってこない」という事実にショックを受けたA子さんたちでしたが、筆者の説明に「そういうことなら仕方ない」と腹をくくり、粛々と遺産分割の準備を進めはじめました。そして、とりあえずは兄の子どもに連絡を取ろうということで意見が一致しました。

 

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