死後に婚外子が発覚するのは、残された家族にとって非常にショッキングかもしれませんが、法律関係者の間ではさほど珍しくない話です。相続手続きの際には戸籍の洗い出しが必須のため、認知された子どもの存在は隠し通せないのです。また逆に、相続人の死を知った「認知していない子」から、死後認知の訴えを起こされることもあります。相続問題の解決に定評がある、弁護士法人菰田総合法律事務所の國丸知宏弁護士が事例をもとに解説します。

「父のお金や会社を受け継ぐことはできません」

それから数週間後、再びA子さんが事務所を訪れました。詳しく話を聞くと、兄の子どもと連絡が取れたのだといいます。

 

A子:「無事に会うことができました。彼から、『私はこれまで父とまったくかかわってきませんでした。そんな父のお金や会社を受け継ぐことはできません。なにより、父はそれを望んでいないと思います』といわれたんです」

 

筆者:「つまり、相続放棄をなさると?」

 

A子:「はい。何度も確認しましたが、気持ちは変わらないとのことで…」

 

筆者:「そうですか。通常であればそのような決断は難しいでしょうが、お子様の決意は固いようですね」

 

A子:「ええ。元々の希望通り、会社や資産はきょうだいで継ごうと思います。兄の最期の願いですから…」

 

このような経緯で、今回の事例では、兄の子どもは相続放棄をすることを決めました。家庭裁判所への相続放棄の申立て(正確には「相続放棄の申述」といいます)が認められ、結果としてきょうだいが相続人となりました。

相続人以外にも財産を残す場合、必須の遺言書作成

この事例では、結果として兄の意思通り「きょうだいが相続して、会社を引き継いでいく」ことで着地しました。

 

A子さんの兄が「認知」の意味をどのように認識していたのかはわかりませんが、生前の発言からすれば、子どもが全財産を相続することになるとは思っていなかったのかもしれません。

 

このケースは兄が生前に認知をしていた例でしたが、親が亡くなったあとに、子どもの側から「死後の」認知の訴えを起こされることもあります。

 

亡くなってから3年以内であれば、このような訴えを起こすことも可能なのです。その結果、「認知」が認められることもあります。そうなれば、その子どもが相続人になるため、いよいよ亡くなられた方の想定外の相続人に財産が渡ってしまうこともあり得ます。

 

今回のケースでは、もし兄の子どもが相続放棄をしなかった場合、全財産は子どもが相続することになります。しかし、もし全財産を「4人のきょうだい」に相続させるという内容で遺言書を作成していれば、4人に財産を分けることも可能ではあります。しかし、そうであっても、兄の子どもはきょうだいに対して「遺留分」(最低限相続することができる割合のこと)を主張する可能性があります。とはいえ、仮にその権利を主張してきたとしても、財産の2分の1が限界であり、最低でも全財産の半分はきょうだいが相続するかたちがとれることになります。

 

このように、ご自身の財産をどう遺すかを考えるにあたっては、まずは自分の相続人がだれになるのかをしっかりと考える必要があります。相続人以外の方に遺したいのであれば、遺言書を作成するなどして対策を立てるしかありません。

 

受け継いでほしい財産を保有してる方は、ご自身に万一のことが起きたときのことも、いま一度考えてみるべきかもしれません。

 

 

國丸 知宏

弁護士法人菰田総合法律事務所

弁護士

 

 

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