米国の「ワクチン大量接種を爆速で進める」超合理的な人材確保

1都3県の緊急事態宣言が延長となった。やはり現状の感染拡大防止策では及ばないところがある。強力なコロナ対策といえばワクチンだが、日本では医療従事者への優先接種が始まったばかりで、集団免疫の獲得にはまだまだ時間がかかりそうだ。有効なコロナ対策を講じるには何が必要なのか? ボストン在住の筆者は、今まさにワクチン接種の現場で働いている身だ。現役医師の立場から、米国で進む「ワクチン投与者の確保」を解説する。

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米国で「ワクチン接種を行える資格」が拡大

突然ですが、皆さんに質問です。【写真1】を見てください。これは、米マサチューセッツ州に住む著者が、ワクチンを接種している写真です。注射をしている人の職業は何でしょう? 次の5択から選んでください。

 

1)看護師、 2)救急救命士、 3)消防士、 4)医師、 5)薬剤師

 

【写真1】注射器を持っている人の「職業」、何だと思いますか?

 

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答えは「3)消防士」です。

 

米国では、各州によって違いはありますが、これまで、インフルエンザのワクチンなどは、医師、看護師、薬剤師、フィジシャン・アシスタント(医師の監督下で手術や薬剤の処方などの医療行為を行う)、調剤技師(ファーマシー・テクニシャン:薬剤師の監督下で調剤業要に当る)など、さまざまな医療従事者が注射しています。

 

ただし、米政府は、より短い期間でより多くの人に、新型コロナウイルスのワクチンを接種することを計画しています。そこで、各州がそれぞれ戦略を練り、消防士、救急救命士、医学生、退職した医師・看護師や薬剤師などに、ワクチン投与の資格を広げています。

 

私の場合は、消防士がワクチンの注射をして、看護師は監視と、まれなアレルギー反応などの緊急対応のために待機していました。

需要超過でも「もはやワクチン供給量の問題はない」

米国では、新型コロナウイルス感染症で多くの人が犠牲となっています。経済は落ち込み、日常活動が制限されています。そんななか、さらに新しい変異株が拡大し、感染リスクが高まったことから、多くの国民が予防接種を望むようになり、現在、ワクチンの供給量をはるかに上回る需要が生じています。

 

私の住むマサチューセッツ州では、2021年2月18日の朝、65歳以上(ベビーブーマーの世代)など100万人以上の住民がワクチンを接種する資格を得たため、ワクチン予約のサイトが一時的にクラッシュしました(※1)

 

そのようななか、米食品医薬品局(FDA)は2月27日、米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を承認しました。このワクチンは1回の接種で済みます。米国では、これまでにファイザーとモデルナのワクチン使用を許可していますが、これらは2回も接種しなくてはいけません。

 

さらに、ワシントンポストによると、バイデン大統領は3月2日、J&Jのライバルである米製薬大手メルクが、J&Jとチームを組んで、ワクチンの製造を支援することを発表しました。

 

大統領は「通常は競争相手である世界最大の2つの製薬会社が、一緒に取り組んでいます」「これは、第二次世界大戦でみたタイプの企業間コラボレーションです」と述べています(※2)。大統領は、5月末までに、すべての米国成人に十分なワクチンを生産することを誓っています。

 

また同紙によると、ファイザーとモデルナは、5月下旬までにそれぞれ2億回分のワクチンを提供することを約束済みです。この供給量は、ワクチン接種の対象となる、米国在住の推定2億6000万人の成人にとって十分すぎるほどです。つまり、ワクチンの供給量はそのうち問題ではなくなるということです。

 

※1 https://www.nbcboston.com/news/local/nearly-1-million-people-now-eligible-for-covid-vaccine-in-mass/2305907/

 

※2 https://www.washingtonpost.com/health/2021/03/02/merck-johnson-and-johnson-covid-vaccine-partnership/

次なる難題に「解決困難ではない」と慎重ながら楽観視

次の問題は、ワクチンを投与する人材の不足です。これに関して、米カイザー・ファミリー財団(KHN)のニュースは、次のように伝えています(※3)

 

「(それでも)専門家たちは、現役および引退済の医療従事者や看護師、研修中の医学生を採用を進めている努力を指し示して、『解決が難しい問題ではない』と慎重ながらも楽観視しています」

 

「だれもがワクチン投与者になれるわけではありません。単にセンターへ足を踏み入れて、ワクチン接種を手伝いたいと申し出ができるわけではないのです。トレーニングの要件は州によって異なります」

 

「州および準州保健当局者協会(ASTHO)の予防接種政策の責任者であるキム・マーティン氏は、『州はまた、採用対象として歯科医、救急医療隊員、およびその他のファーストレスポンダー(救急医療員、消防士など)を許可しています』と語ります」

 

ちなみにPREP法第5条改正にて、新型コロナウイルスのワクチンの投与、処方や調剤を許可されている有資格者は、生じた損失に対するすべての請求に関して、連邦法および州法に基づく訴訟および責任から免除されることになっています(※4)

 

つまり、資格のある人が新型コロナウイルスのワクチンの注射をして、何かがうまくいかなかったとしても、訴えられることはないということです。

 

※3 https://khn.org/news/article/calling-all-vaccinators-closing-the-next-gap-in-covid-supply-and-demand/

 

※4 https://www.phe.gov/Preparedness/legal/prepact/Pages/COVID-Amendment5.aspx

「投与できる人」の拡大は、集団免疫の早期獲得に貢献

ハーバード大学医学部の救急医学チャールズ・ポズナー准教授らは、米雑誌『WIRED(ワイアード)』にて、「医療従事者や医療システムをよく利用する人の接種のペースを最大化するために、病院、医療センターや診療所に依存することは理にかなっています。ただし、ほとんどの人にとって、このような場所は不便です。人々がいる所、コミュニティで応じる必要があります」と指摘します(※5)

 

米国では「薬局の砂漠」といって、処方箋へのアクセスが制限されている地域が問題となっています。「薬局の砂漠」は地方のみならず、都市でも交通機関へのアクセスが制限されている、特に貧困層やマイノリティが住むコミュニティにとっても身近な問題です。

 

これらは、新型コロナウイルスによる感染率と死亡率の両方が高い地域ですが、「ワクチンの砂漠」になる可能性もあります。

 

そのため、ポズナー准教授らは、次のように述べています。

 

「残念ながら、民間薬局は大量接種に対応するようには設立されていません。…消防署と救急医療サービス機関(EMS)のほうが、はるかに準備が整っています。どちらも長年の地域との繋がりがありますし、民間薬局とは違い、消費支出ではなく人口密度に基づいて分布しています。どちらも日常的に、地域の緊急事態に対応しています」

 

「米国には約52,000の消防署があります。これらの既存の資産を活用することで、ワクチンによる集団免疫までの時間が短縮されます」

 

日本では、現在、ワクチンの供給量が問題になっていますが、そのうち人材不足と接種会場が課題になるでしょう。ワクチン投与の資格を広げることは、合理的だと思います。

 

※5 https://www.wired.com/story/opinion-let-fire-stations-and-ems-crews-administer-covid-vaccines/

 

 

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大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

 

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星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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