隠居の場合は後を継いだ新しい戸主が家族や一族のために家の財産を裁量的に使いますが、家族信託では、託された財産を受託者は、受益者のためだけに使うことになります。
どのような場面でどれだけ使うかということは契約書に「信託目的」として書かれています。受託者はそれを忠実に守る義務があります。結果、父から託された財産を娘は、父に毎月定額給付したり、父が必要な時にはそれに見合うお金を支給するような形で管理していきます。
お金の流れを水道に例えれば、水源は父で娘は水道の蛇口の管理者、水道管の先には父がいて、水量調整された水を受け取る、ということになります。元々自分が貯めていた水を自分のために使うだけですから(受託者は蛇口の調節役に過ぎないんですから)、贈与税なんか、かかるわけがありません。
“現代の隠居”は届け出制ではありません。家族間で契約書を作って申し合わせるのです。面倒だしお金もかかる。何のためにそんなことをしなければならないのでしょう。
ひとことで言えば認知症対策です。
家族の1人の認知症を放置していれば、いずれ金融資産は銀行に凍結されます。通帳のキャッシュカードを娘が預かって管理をする、などという対策を取る人は多いでしょう。しかし通常、この管理はとても長く続かざるを得ません。
カードを紛失したり通帳の磁気が消えて機械に反応しなくなることもしばしばありそうです。その度に「本人の意思確認」を求められるというやっかいな問題もあります。また子が複数いる場合には、親のお金を管理する人とノータッチの人との間で、あつれきを生じることもよくあります。
親の資産を子が管理することは違法でも何でもありません。ただ、(何と言ってもお金のことですから)厳正に行った方が家族の誰にとっても幸せになる確率が高いことは確か。家族で決めたルールの中で皆が一体感をもって“楽隠居”をしてもらう方が、安心です。
家族信託はほかにもまだまだ多くの有益な機能を持っています。人生第4コーナーから第5コーナーを家族の力で回りきるために、この活用をぜひ考えてみてください。
石川 秀樹
静岡県家族信託協会 行政書士
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