自社の専門性を生かして、生産ラインの最適化
積極的なデジタル化の促進でDXを高めている台湾の中小企業
台湾と日本の共通点として、中小企業が多いことが挙げられます。台湾の中小企業はサプライ・チェーンが非常に柔軟性に富んでいるのが特徴で、たとえば、私がどこかから仕入れをしようとして在庫が不足していると、第二、第三、第四というように予備のサプライ・チェーンを使うことができます。
これは政府主導のマスク製造機を作ったときにも当てはまりました。「マスク製造機を作ってくれるのであれば、マスクメーカーでなくても構わない」という条件を掲げたところ、参入した会社の一つは航空宇宙エンジニアリングが専門の会社でした。この会社は、公共の利益を求めてプロジェクトに参加してくれたのです。彼らは自社の専門性を生かして、生産ラインの最適化を助けてくれました。
マスクを生産する全工程を見れば、上流・中流・下流にありとあらゆる専門家が集まって、一種の生態系のようなものを作り出していることがわかるでしょう。これが台湾の製造業の現状です。
サービス業にも言えることですが、台湾では、新しい概念、たとえばAIのような新たなテクノロジーが出てくると、最初にTSMC(台湾発の世界最大の半導体メーカー)が採用して実用化し、次に中小企業はそれを真似るというようなプロセスにはなりません。逆に、まずは中小企業が飛びつくのです。
「うちの会社の品質管理部門では作業員が品質チェックするのに時間がかかりすぎるので、AIで管理できないか」とか、「作業員が集まらないから、代わりにならないか」とか、「作業員を機器に置き換えたいときに使えるんじゃないか」などと考えるのです。
たとえば、製品の製造工程にパラメータが多すぎる場合、以前は経験で処理されていました。つまり、ベテラン作業員の経験に頼っていたのですが、ベテランがいなくなったら誰も作業がわからないというのは大きな問題です。かといって、見習いをベテランの横に十年も二十年も置いて学ばせるわけにもいきません。
そこで「ベテラン作業員がAIにコツを伝授することはできないだろうか」と考えるわけです。AIの見習いであれば、ベテランの作業を半年とか一年観察して、パラメータの調整方法を身につける可能性があります。中小企業では、このようにAIを有効活用して、問題の改善を図ろうとするのです。
台湾にはAIスクールのようなものがあり、中小企業の経営者がこのような問題に取り組むことができる仕組みになっています。また、中には「AIを学びたい」と自ら研修生として訪れる経営者もいます。研修生は教科書的な問題を解決しようとしているのではなく、品質管理の改善方法や歩留まりを上げる方法など、具体的な問題を解決しようとしています。
いったんAIスクールで学んだ人が問題の解決策を見つければ、それはサプライ・チェーンの再編にもつながるでしょう。同時に、彼の持つ企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)がさらに高まることにもなり、ソリューションを同業他社と共有することも可能になります。それによって彼の企業のイノベーションは、産業分野における垂直的な「伝授」ではなく、水平的な「拡散」として広がっていきます。これが台湾の中小企業の一つの特色と言えるでしょう。
オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
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