こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

台北駅の試みは社会のイノベーションに

現在、台湾はフィリピンやインドネシア、ベトナムなどからの出稼ぎ労働者を多数受け入れています。多くの場合、男性は工事現場や工場などでの仕事、女性は介護やメイドなどの仕事に従事しています。週末になると、彼らは交通至便でエアコンも効いている台北駅のコンコースに集まって座り込み、そこで故郷の食べ物を持ち寄っておしゃべりをするのが習慣でした。

 

しかし、新型コロナウイルス感染防止対策や「外国人が大量に集まっている光景は異様」という市民からのクレームがあり、鉄道局はいったんコンコースの座り込み禁止を決めました。しかし、政府が永続的禁止の措置に待ったをかけ、抗議も相次いだため、鉄道局はコンコースの利用を認める方向に転じると同時に、前述したようなペイントを施したのです。

 

台北駅のコンコースのイノベーションとは、社会のイノベーションに他なりません。このイノベーションは社会における相互理解のためのものであり、まさにインクルージョンです。こうしたことから、今後は「持続可能な発展」「イノベーション」「インクルージョン」の三つが、社会を前進させる重要なキーワードになると私は考えています。

 

実際のところ、台湾では誰もが「自分たちはもともと漢民族だった」「異文化と交流すべきだ」などと考えているわけではありません。「自分はこの台湾という島の人間でしかなく、外の世界は全部外国だ」と思っている人もいます。もちろん、これもまた一つの考え方です。

 

しかし、時代を経るにつれて、とくに私たちのような比較的新しい世代では、「両親それぞれの母語が異なる」という子供も増えてきています。いわゆる「新台湾の子」です。こうした状況は、時間が経つに連れて徐々に主流の考え方になるのではないかと思います。

 

台湾は本来、非常に多元的な共存の場所でした。たとえば中国語の発音が少々変だとしても「おまえは台湾人じゃない」などと言われることはありません。戒厳令の時代にそのような事実があったことは否定しませんが、現在の台湾は間違いなくインクルージョンの方向に歩んでいるといえます。

 

その一例を挙げるならば、台湾には「国家言語発展法」という法律があり、二十以上の様々な言語が国家の言語として認められています。台湾語もまた国家の言語であり、中国語だけが公用語という状況ではありません。

 

また、台湾の手話を教えるイベントも、私の執務室のあるラボで何度も行われています。私も手話を使う人たちと一緒に写真を撮ったりして、これらのイベントを応援しています。私の手話は上手ではありませんが、他人の手話を見てわかる部分はけっこうあります。

 

新型コロナウイルス対策で設けられた衛生福利部の指揮センターが、毎日午後二時から定例記者会見をしていましたが、指揮官の後ろに必ず手話通訳がついていました。その手話通訳を見て、一つ二つの手話を覚えた人も多いと聞きました。誰かが無理やり手話を覚えさせたわけではないのに、です。

 

これもまた聴覚障がい者という弱者を置き去りにしないというインクルージョンの表れだと思います。社会を発展させるためには、そのような寛容さが一番大事なのです。

 

 

 

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

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