不幸な事故のせいで意識が戻らない妹、そんな妹を見捨てようとする妹の家族。幸い、姉妹には資産家の父親がいますが、妹を守るために父親の財産を多く相続させれば、ゆくゆくは冷酷な妹家族に実家の財産がわたることになり、妹思いの姉はジレンマに陥ります。解決方法はあるのでしょうか? 不動産・相続問題に強い山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

「申し訳ありません。妻と離婚したいんです」

「お姉さん、こんばんは。遅くに失礼します」

 

「正則さん。お仕事帰りに寄っていただいて、すみません」

 

彩子さんは妹の夫である正則さんを、自宅のリビングに通しました。

 

「美紀ちゃんのこと、本当に心配よね。とても仲良しの家族だから、みんなどんなにつらいだろうと思って…」

 

「ええ…」

 

「でも私、奇跡を信じてる。毎週お見舞いに行っているけど、顔色もいいし、きっと目を開けてくれる日が来ると思うの」

 

「…………」

 

彩子さんは黙り込んだ正則さんの表情から、不穏なものを感じました。

 

「折り入ってお話って何かしら? 入院費なら心配しないで、父が…」

 

「お姉さん、申し訳ありません。僕は美紀と離婚したいんです」

 

「…え?」

 

「目の覚めない美紀を抱えながら、これからの人生を生きるのがつらいんです。子どもたちもどんどん成長します。現実が押し寄せてくるんです。子どもたちを守るためにも、僕はこれ以上美紀を支えられません…」

 

「ちょっと待って」

 

「すみません、今日はこれだけお伝えに来ました。また改めてお伺いします」

 

言葉を失う彩子さんを残し、正則さんは逃げるように帰っていきました。

妹を見捨てた「妹の家族」を許せない

その後、彩子さんは何度も正則さんと話し合いを持とうとしましたが、実現しませんでした。正則さんの気持ちは、確実に離婚に向かっているようでした。

 

彩子さんは当初、妹の家庭を守らなければと思い、正則さんに離婚を思いとどまるよう働きかけてきましたが、妹を心配するそぶりも見せない正則さんとその子どもたちに、次第に怒りを覚えるようになりました。

 

「かわいそうな妹を、簡単に見捨てようとするなんて…!」

 

そのとき、ふと思い浮かんだのは父親の顔でした。彩子さんと美紀さんの父親は事業を成功させた資産家ですが、すでに高齢です。そう遠くない将来、相続の発生が予想されます。当然、寝たきりの美紀さんにも財産がわたることになりますが、もし美紀さんが亡くなれば、その財産は子どもたちに受け継がれることになります。

 

「妹を見捨てた子どもたちに、絶対そんなことはさせたくない…」

 

彩子さんは弁護士のもとを訪れました。

 

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