現代の法律では、長男か次男か、男性か女性かなどの別なく、子の法定相続分は平等とされています。もし法定相続分と違う割合で相続をするなら、相続人全員の遺産分割協議により、その内容を定める必要があります。しかし、遺産分割協議がすんなりと完了するケースばかりではありません。本記事では、きょうだい間に勃発した遺産争いの例とその解決法を、不動産・相続問題に強い山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

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亡父は工場経営者、遺産は家屋敷のみで現金なし

現代の相続法は、親と同居していたり、介護をしていたりする人に優しいとは限りません。先日、筆者が依頼を受けた事案には、現代相続法の「理不尽な部分」が如実に表れていました。

 

筆者の提携先である税理士から、Aさんという男性の相談にのってくれないかと頼まれたのが、本案件に関わるきっかけでした。税理士の話を聞く限りでは、ごく一般的な内容であり、簡単な遺産分割協議で終えられるだろうと考えていました。

 

東京の区部の昔ながらの小規模な工場が軒を連ねる地域で、長年製造業を営む父親が亡くなったため、2人の息子さんに相続が発生したというものです。

 

しかし、実際にAさんに会って詳しく話を聞いてみると「これは一筋縄ではいかないな」と、当初の楽観的な見通しを改めました。なぜなら、目立つ遺産が時価6,000万円ほどの工場兼自宅と敷地しかなかったからです。父親に借金はありませんでしたが、残された現金はごくわずかでした。

 

なにより問題だったのは、Aさんが遺産である工場兼自宅で父親と同居し、Aさんの家族と一緒に家業を手伝っていたことです。

 

【相続人関係図】

被相続人:父親(工場経営者、配偶者は故人)
相続人 :長男A(相談者、既婚、父親と同居&晩年の介護担当、家業に従事)
     次男B(既婚、隣県に自宅あり)
資産内容:工場兼自宅と敷地、預貯金はごくわずか

相続人の「私が親の世話をした」が通用しにくい理由

「家業を手伝っていたなら当然、家屋敷はAさんのものになるのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、冒頭でも述べたとおり、子の法定相続分は平等です。つまり、遺産分割しないかぎり、6,000万円相当の工場兼自宅の法定相続人はAさんとBさんであり、それぞれが2分の1ずつの割合で相続するのです。実際にAさんは「家屋敷を売却して、現金で分けてくれ」というBさんの希望を受け入れられず悩んでいました。

 

この法定相続分の定めは、Aさんにとって非常に不平等な印象を受けるでしょう。相続法でも、被相続人(亡くなった方)の家業や介護に尽くし、遺産の形成に寄与した相続人に認められる「寄与分」という制度を認めています。しかし、相続人が寄与分を主張するためには、相続人全員の遺産分割により定めなければなりません。本案件では、いくらAさんが寄与分を主張しても、Bさんが認めなければ、家屋敷はAさんのものにはならないのです。

 

とくに裁判手続に移行して寄与分を主張するのも、非常にハードルが高い主張になります。一言でいうと、単なる家族間の協力のレベルを超えて、介護業者に代わるような業務を行ったレベルでなければ、寄与分として金銭的な評価をしてくれません。「私のほうが、親の世話をしていたのに!」という声はよく聞くのですが、法的な請求まで認めてもらうのは非常に難しいのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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