リモートワーク実施で「生産性向上」と必ずしも言えず
リモートワーク実施による生産性の変化
2020年5月時点*3では、リモートワーク導入により「生産性が上がった」とする回答割合は37%に留まっていたのに対し、同年10月時点では49%まで上昇した(Figure9)。
*3 CBRE「第2回オフィステナント緊急アンケート調査(2020年5月実施)」
Figure2で示した通り、約6割の企業がコロナ禍を契機にリモートワークを導入した。新しいツールや業務の進め方の変化への対応など、十分な準備を整える時間が足りないなかでの運用開始となったことが、「生産性が上がった」とする回答割合が低かった要因だろう。同年10月の「生産性が上がった」とする回答割合が高まったのは、リモートワークの習熟度が高まった結果と考えられる。
ただし、依然として5割以上の回答者が「生産性が下がった」としており、リモートワークの習熟度が上がっても、乗り越えることが難しい課題が残されていることがうかがえる。それでは、その課題は何か。メリットともに分析を行った。
「常に出社して働く」という固定観念は払拭
リモートワークのメリット
リモートワークで感じられたメリットの回答割合をみると、上位3項目は、「通勤に伴う負担軽減」「育児・介護との両立」「ワークライフバランス」となった。しかし、いずれも業務そのものにおける直接的なメリットとはいえない。業務以外の時間に余裕ができることで、副次的に業務効率に還元されると考えられるメリットである(Figure10)。
これらの項目は、新型コロナウイルス感染拡大以前にも、企業がリモートワーク導入を進める理由として挙げられてきた。背景には人口減少社会での労働力確保がある。企業は高齢者や女性が働きやすい環境や柔軟な働き方を認めることにより、優秀な人材を確保しようとしてきた。
リモートワークは、コロナ禍における一過性の対応にとどまらず、こうした社会の構造変化にも対応し得る手段の一つである。9割の企業がリモートワークを導入したことで、「常に出社して働くべき」という固定観念は少なくとも取り払われたと言えるだろう。
「コミュニケーションの希薄化」に起因する課題が増加
リモートワークを実施する上での課題
一方、リモートワークを実施する上での課題では、「従業員同士のコミュニケーション」「部下・チームマネジメント」「捺印」「心身の健康管理が難しい」「通信環境」が上位に挙げられた。なかでも、「コミュニケーション」「マネジメント」「心身の健康管理」といった項目は2020年5月時点の調査結果に比べて急増している(Figure11)。
「心身の健康管理が難しい」を選んだ回答者の急増は、オフィス出社時に比べ、在宅勤務による運動不足などに加え、コミュニケーション不足に伴う信頼感・安心感の欠如や、孤立感を感じる従業員が増加していることが背景にあると考えられる。
同じく回答者の割合が急増した「コミュニケーション」や「マネジメント」と共通しているのは、「人との繋がりの希薄化」に起因するということだろう。リモートワークの習熟度が上がっても、乗り越えることが難しい課題はこの点にある。
課題解決に最も効果的な場所は、やはり「オフィス」
オフィスワークに適した業務
では、こうしたコミュニケーションの課題解決に適した働く場所とはどこなのか。シチュエーション別に、働く場所についての適正度評価の回答を集計した(Figure12)。
「社内コミュニケーション・コラボレーション」「組織・チームの一体感の醸成の場」「クライアントとのコミュニケーション・コラボレーション」といった社内外の「人との繋がり」に関する項目では、「オフィス」が圧倒的に高い評価を得た。
確かに、「自宅」や「フレキシブルオフィス」は「集中するための場」としては効果的であり、1人で遂行可能な業務や集中力を必要とする業務については、むしろリモートワークの方が適しているかもしれない。
しかし、オンライン会議などのツールを用いても、リモートワークでは「コミュニケーション」や「コラボレーション」、「組織・チームの一体感」を補うことは難しいということをこの結果は示している。
場所にとらわれない「ボーダーレス」な働き方へ
リモートワークとオフィスワークの特長を組み合わせた働き方
リモートワークが普及したことで、改めてオフィスの役割が考え直されている。コミュニケーションを始めとする「人との繋がり」は、オフィスでおこなわれることが最も効果的であると多くのテナントが考えていることが確認された。
このことは、今後のオフィスの重要性についての回答結果にも表れている。オフィスの「重要性は高まる」が26%、「現在と変わらない」が43%となり、回答者の約7割が、オフィスは少なくとも従前どおり「重要である」としている(Figure13)。
一方で、リモートワークには、社会構造の変化に対応する柔軟な働き方を可能にするというメリットがある。
それぞれの特長をうまく組み合わせた、場所にとらわれないボーダーレス・ワークが今後進んでいくと考えられる。その組み合わせ方は、企業のプロダクトや職種構成に応じて多様であることから、正解は一律ではないだろう。
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