2025年には、65歳以上の人口が国民全体の30%になることが見込まれています。それに加えて、日本社会では、後期高齢者の人口増加が最大の課題になっています。見送る家族が高齢者と共に最高の最期を迎えるためにはどうすればよいのでしょうか。本記事では、本人が拒否しても蘇生を中止できない、救急現場が抱える問題点や、ICUの現実について見ていきます。

蘇生処置を「やめられない」…救急隊員の苦悩

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

 

高齢者の救急搬送について、救急医療の現場はかなり対応に苦慮しています。まず挙げられるのが、救急車を要請したものの、本人や家族などが蘇生や搬送を望まないという「蘇生拒否」の問題です。

 

2019年に、朝日新聞社が都道府県庁所在地と政令指定都市の計52消防本部を対象に行った調査では、約6割(32本部)がそれまでに蘇生拒否の意思を示された経験があり、約4割(20本部)が記録上、あるいは現場の感覚として蘇生拒否が増えている、と回答しています(図表)。

 

(朝日新聞社2019年「蘇生拒否の調査」より)
[図表]消防本部を対象に行った蘇生拒否の現状 (朝日新聞社2019年「蘇生拒否の調査」より)

 

救急車を呼ぶ理由は、現場で家族間の意見が食い違うこともありますが、単に家族や施設職員が高齢者の急変を目の当たりにして動転して119番通報をしてしまい、後から「心肺蘇生を希望しない」という方針を思い出して、救急隊に蘇生中止を求めるケースもあります。

 

総務省消防庁「傷病者の意思に沿った救急現場における心肺蘇生の実施に関する検討部会」が2018年に行った調査では、本人が心肺蘇生を望まないのに家族らが救急車を呼んだ理由には次のようなものが挙がっていました。

 

・動転、パニックに陥った、何をしたらよいかわからなくなった
・家族間での情報共有不足、意見の不一致
・施設職員間での情報共有不足
・施設で救急車を要請するというルールになっている、逆に救急要請のルールがない

・かかりつけ医に連絡がつかなかった
・心停止の判断がつかなかった
・死亡診断、死亡確認のため 等

 

しかしながら、現状の総務省消防庁の基準では、心肺停止した傷病者の元に救急車が出動したときの救急隊の任務は、原則として次の二つしかありません。

 

①救命の可能性が少しでもあれば、心肺蘇生を行う
②確実に蘇生の可能性がないと判断されたときは、警察に通報する

 

つまり、現時点では蘇生中止を定める法律がないため、家族の意向や本人の意思によって蘇生中止を求められても、救急隊は蘇生をやめるわけにはいかないのです。

 

救急隊員も、高齢で骨も弱くなった体に胸骨圧迫をすれば肋骨が折れるなど苦痛を与える可能性があることも知っていますし、「これ以上、苦しめないで」と必死に訴える家族の気持ちも理解しています。

 

それでも一度出動した以上、任務として蘇生をせざるを得ないため、多くの救急隊員は良心の呵責に耐えながら業務に当たっています。なかには心肺停止の高齢者に心臓マッサージをする“ふり”をしながら、病院に搬送したという救急隊員もいると聞きます。

 

こうした問題を受け、自治体によっては「蘇生中止」の基準を作成し始めているところも出ていますが、東京などまだ一部の自治体にとどまります。筆者が理事長を務める病院がある埼玉県川口市でも、残念ながらまだ基準は整備されていません。

 

社会資源という視点でいえば、救急車1台を走らせるのも「タダ」ではありません。無用なコストを削減し、救急救命に関わる資源を本当に必要な人・必要なときに集中させるという意味でも、国としての明確な基準づくりが急がれます。

 

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