子ども世代は「親の死なんてまだ先の話」と考えがち
親子でエンディングノートを書くときや人生会議をするとき、息子さん、娘さんに一つ注意してほしいことがあります。それは親の話を「黙って聞く」ということ。つまり、話を否定したり遮ったりせずに耳を傾ける、傾聴することです。
少し前までは、高齢者に終末期の話題を持ち出すと、本人が強い拒否感を示したり怒り出したりするケースもあったものです。しかし当院の患者さんたちと話をしていると、最近の70、80代は自分の死についてリアリティをもって考えている人が多いと感じます。
むしろ親は自分の最期について話をしたいのに、息子や娘たちのほうが「今そんな暗い話をしなくても…」「まだ元気だし、大丈夫でしょう」と遮られてしまう、といった声もよく耳にします。
親御さんが自立した生活ができる段階なら、子ども世代は「終末期なんてまだ先の話」と考えがちです。特に親子が離れて住んでいる場合、久しぶりに会っている時間は親も気を張っていますから「うちの親はまだまだしっかりしている」と見えるかもしれません。子ども世代は、自分を育ててくれた親がこの世からいなくなるという寂しい、気分の塞ぐ話に向き合いたくない心理も働きますし、無意識に昔の元気で頼りがいのある親の姿を求めてしまう傾向もあるようです。
しかし実際には、健康そうに見える人も年齢とともに心身の衰えや変化が進んでいることは少なくありません。日頃の自身の変化を感じている親が「話をしたい」というときは、それを避けたり後回しにしたりせず、親身に耳を傾けてあげてください。
すでに病気や要介護になっている高齢者の今後の治療方針などについても、同様のことがいえます。
延命について、本人と家族の意向が異なることも多い
多くの人は、自分自身は延命だけの治療を受けたくないと考えていても、家族には少しでも長く生きていてほしいと願うものです。本人の意思と家族の意向は異なることも多く、大事な家族を想う気持ちから、本人が求めていない治療やリハビリを医療者に要求するご家族もいます。高齢の親が「もう治療はしたくない」と考えていても、息子や娘に「そんなこといわないで、もっと頑張って長生きして」と強く言われると親は自分の本音を出せなくなってしまいます。
また体の弱った親を心配するあまり、過度に安静や安全を求めてしまい、それによって親御さんの生活の質を下げている例も多くあります。
先日も高齢の母親と息子さんの家庭で、母親が家の階段から落ちて骨折した例がありました。
息子さんは親思いのいい方なのですが、退院してから再び骨折しないようにと「一人での外出禁止」「2階に上ってもダメ」と母親を自室に閉じ込めるようになってしまいました。それでも母親は元気な人で、在宅医の私やヘルパーさんに「息子には内緒ね」と言いながらたまに近所に買い物に行ったりしていたので救いがありましたが、下手をすると本人の心身の状態を悪化させかねないと危うさも感じました。
「この人はこういう人だから」と本人を尊重し、「転んでも、それはそれで仕方がない」と気持ちにゆとりのある対応ができるご家族は少ないという印象です。
本人の意向を聞くときは、できれば家族として自分の気持ちはひとまず脇に置いて、本人の率直な希望を聞くことを意識してみてほしいと思います。
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