総務省統計局によると、令和2年9月15日に、65歳以上の高齢者人口は3,617万人と、過去最多となりました。令和7年には、特養老人ホームなどの介護施設利用者は120万人と予想されています。今後、入所中に発生する相続が増えるかもしれません。税理士の岡野雄志氏が相続人となってから慌てないよう、事例と対策を紹介します。 ※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

入所中に母が他界…実家に特例は適用できる?

それから2年後、Gさんの母親はホームで息を引き取られました。兄弟は遺産分割協議を行い、実家はGさんが相続することになりました。ここで、Gさんは少し不安になります。母親はホームで亡くなったので、相続税を控除・減額できる特例は使えるだろうか…?

 

結論からいうと、老人ホームに入所されていた被相続人(亡くなった方)の居住用財産(空き家)は相続財産とみなされます。また、平成25(2013)年の税制改正により、相続税の課税価格を減額できる「小規模宅地等の特例」も適用できるようになりました。

 

主な要件は、以下の通りとなります。

 

(1)被相続人が要介護認定もしくは要支援認定を受けていること。

 

(2)認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅、障害者支援施設、共同生活援助を行う住居に入所または入居していたこと。

 

(3)被相続人が居住用として使用していた宅地の場合、相続開始の直前まで、その家屋が事業や貸付に利用されていないこと(ただし、貸付事業用の宅地等にも、一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」が適用できます)。

※詳しくは国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」をご覧ください(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm)。

 

(4)被相続人が(2)に入所してから相続開始の直前まで居住していたのは、(2)の老人ホーム等であること。

 

なお、老人ホームに入所していた被相続人が、要介護認定の申請中に亡くなった場合でも、要件を満たせば、「小規模宅地等の特例」は適用されます。

 

※詳しくは国税庁「老人ホームに入所していた被相続人が要介護認定の申請中に死亡した場合の小規模宅地等の特例」をご覧ください(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/10/16.htm)。

 

「小規模宅地等の特例」は、同居家族や親族が対象ですが、Gさんにはこの特例が適用できます。なぜなら、母親はすでに配偶者が亡くなっていて、相続開始前3年以内に同居する家族・親族がいない、相続税申告の期限までその宅地を相続人が保有しているといった要件を満たしているからです。いわゆる「家なき子の特例」です。

 

実は、平成30(2018)年の税制改正により、「家なき子の特例」はより厳正化されました。相続開始前3年以内に、相続人が「自己または自己の配偶者」所有家屋に住んでいないことに加え、「3親等以内の親族」「特別な関係にある法人」所有家屋にも住んでいないこと。また、相続開始時に住んでいる家屋を過去に所有したことがないとの要件も加わりました。

 

なぜ、このような厳しい要件が追加されたのか。それは、「家なき子の特例」が、そもそも、親と別居していて持ち家のない子が親の居住用宅地を相続することで、その宅地を維持させることが目的だったからです。つまり、相続時にGさんが持ち家に住んでいればアウトでしたが、Gさんは賃貸マンションに住んでいたため、この要件もクリアしました。

 

「小規模宅地等の特例」が適用できれば、330平方メートルまでの宅地部分は80%土地評価額が減額できます。例えば、土地価額が6,000万円の宅地を450平方メートル相続したとしましょう。6,000万円×330/450平方メートル×80%=3,520万円の評価額減額となります。「小規模宅地等の特例」を適用できるとできないとでは、大きな違いです。

 

Gさんは、無事、相続税の申告・納税を済ませ、実家で遺品整理をされています。Gさんの母親は晩年こそ認知症を発症されましたが、もともと几帳面な方だったようです。物品は整理整頓され、家屋や家具調度は手入れされていました。修繕して、いずれはGさんがご一家で住むつもりだとおっしゃっています。

 

 

岡野 雄志

岡野雄志税理士事務所 所長 税理士

 

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