総務省統計局によると、令和2年9月15日に、65歳以上の高齢者人口は3,617万人と、過去最多となりました。令和7年には、特養老人ホームなどの介護施設利用者は120万人と予想されています。今後、入所中に発生する相続が増えるかもしれません。税理士の岡野雄志氏が相続人となってから慌てないよう、事例と対策を紹介します。 ※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

認知症になったら…どんな制度で支える?

実家を売却しようとするGさん兄弟に反対したのは、母親の成年後見人でした。夫亡きあと、母親は自分が弱るのを予見したのかもしれません。次第に認知症の兆しも表れていたので、息子たちに迷惑をかけたくなかったのでしょう。自ら後見人を依頼していたのでした。

 

成年後見人の選定には、実は2つの制度と方法があります。1つ目は、認知症などを発症し、判断能力が不充分になったあとで、家族など周りの方が家庭裁判所に選定を申し立てる「法定後見人制度」。2つ目は、判断能力が不充分になる前に、判断能力が低下した際には財産管理を任せるといった内容の契約を、ご本人自らが後見人と結ぶ「任意後見人制度」です。

 

Gさんの母親は、この「任意後見人制度」を選択していたのです。任意後見人は、弁護士や司法書士のほか、信頼できる人なら家族や友人でも可能で、以下の手順で進められます。

 

公証人役場で公正証書(任意後見契約書)を作成し、法務局に登記。

認知症の症状を感じたら、家庭裁判所に申し立てる(医師の診断書など書類提出が必要)。

家庭裁判所が選任した任意後見監督人による監督の下、任意後見人による支援(財産の管理など任意後見契約で定められた仕事)が開始。

 

財産管理契約を結んでいる以上、後見人の使命は母親の財産を守り、管理することです。たとえ家族であっても、母親の財産を自由勝手には使えません。財産の処分に関しては、家庭裁判所の許可が必要となる場合があります。また、家族の思うようにならないからと、後見人を解任することもできません。

 

実は、判断能力が低下する前に財産管理などを依頼できるのは、成年後見人や任意後見人だけではありません。家族・親族に管理や処分を託す「家族信託」という制度があります。

 

家族信託とは
家族信託とは

 

「家族信託」なら、成年後見人のように定期的に報酬を支払う必要がありませんし、家庭裁判所への報告義務もありません。最もメリットが大きいのは、二次相続以降の承継人指定が可能なことです。例えば、息子に相続させた不動産を、さらに息子の子、つまり孫にも承継させたいという場合、「受益者連続型」という信託契約が締結できるのです。

 

家族・親族の中に金遣いの荒い人やギャンブル好き、放蕩癖のある人がいるなら、むしろ「家族信託」はおすすめできません。しかし、Gさん一家のように信頼関係が良好な家族なら、成年後見人制度より「家族信託」のほうが使い勝手がよい制度といえるでしょう。

 

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