能溢れるアーティストは、タフで、戦略家で…
経験をすべてアートに昇華させる
私が大学を卒業後、40年にわたり直島に始まるアートの最前線で出会ってきたアーティストたちの話をします。アーティストとは一体、どういった人たちなのでしょうか? なかなか皆さんにとって身近な存在ではない人が多いでしょうから、解説を加えていきます。
アーティストというのは、成功法則や定石がないフィールドで、一人で直接的に社会と関わり合います。特に、才能溢れるアーティストは、タフで、戦略家で、野生動物のようなカンを持っています。「直接的に」社会と関わるアーティストの世界との関わり方こそが、インターネットなどの普及により、結果として間接的にしか社会と関わらなくなってしまった現代人が、見習うべき点かもしれません。
優れたアーティストは、常に自分が向き合っているものに対し当事者として向き合い、あたかも舞台の中央にいるかのような姿勢で臨みます。実際にそうであるかどうかは問題ではないのです。自らの視点を持ち、そこから世界を眺めているという自負を持っているのがアーティストであり、その自己に対する信頼が人一倍、強い人たちです。
アーティストというひとつのキャラクターがあるわけではなく、ビジネスパーソンのような人もいますし、学者ふう、政治家ふう、ホームレスふう、クリエイターふうなど、実に様々で、人の数だけアーティストの形は見受けられます。いいアーティストとは、生来の自分にうまく今の生き方を適応させていて、少なくとも社会的には強烈に個性がはっきりしている人だと思います。
また、リスクを顧みないという点では、ビジネスフィールドでいえば創業者マインドを持った人たちということになるでしょうか。自らの生涯をかけて投資し続ける人たちです。
私がベネッセに勤めていたころ、当時社長であった福武總一郎に「ビジネスを成功する秘訣は?」と聞いたことがありました。そのときに福武は、「成功するまで止めなければいい」と答えました。当たり前のことですが、それができるかどうかが成功の鍵でしょう。アーティストは、職業を選んだ時点ですでに「止めない」道を選んでいる人たちです。
私が直島で仕事をしていた時代に作品を制作してもらったアメリカのジェームズ・タレルは、実にインテリで大学と大学院において、知覚心理学、数学、地質学、天文学、芸術学などを学んでいます。その反面、実に豪快でかつ勇敢な性格かつアメリカの西部劇に出てくるヒーローのような人で、いざとなると「弱きを助け、強きをくじく」正義感に溢れた人です。
アーティストというと内向的な人をイメージするかもしれませんが、タレルはまったく逆の性格でした。趣味も多彩で、クラシックな飛行機に乗り、ハンフリー・ボガートとイングリット・バーグマンが共演した映画の『カサブランカ』のラストシーンに登場するロッキードL‐12エレクトラというマニアックな機種の飛行機や他にも数機所有し、小型機は日常的に乗り回していました(私も何度かタレルが操縦する飛行機に乗らせてもらった経験があります)。