NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、絶望することなく忍耐の生活を送る。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを浴びる存在となる。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

浪花千栄子は帝国キネマでもスターのひとり

市川百々之助が選んだ相手役として、浪花千栄子は帝国キネマでもスターのひとりとして扱われた。

 

この映画会社は大正9年(1920)に設立され、正式名称を帝国キネマ演芸株式会社という。「帝国キネマ」あるいは「帝キ」と略して呼ばれることが多かった。

 

創立者の山川吉太郎は有名な興行師で、千日前に映画館や寄席、劇場、遊園地などが集まる、日本初の複合アミューズメントセンター「楽天地」を建設したことでも知られていた。

 

新興の映画会社だが資本力があり、昭和3年(1928)には、現在の東大阪市に東洋一の規模を誇る長なが瀬せ 撮影所をオープンさせている。

 

しかし、千栄子が以前に在籍していた東亜キネマと同様に、帝国キネマもまた「関西の映画会社」といったイメージが強い。

 

大阪を中心とする関西と東京の文化の違いは、現在よりもずっと顕著だった。人々が好む映画の傾向もかなり違ってくる。そのため日活や松竹などは、東京と大阪の2都市に会社機能や撮影所を設けて、それぞれの好みにあわせた映画を作る体制をとっていた。

 

帝国キネマは関西を拠点とする映画会社のなかでは、製作本数で第1位の地位にあった。しかし、「大阪の映画会社」といったローカルな印象が強い。

 

関東大震災後の一時期、大阪の人口は東京を追い抜き、日本の文化・経済の中心地になっていた。現在よりもずっと影響力が強かった時代ではあるのだが、それでも、2都を制する全国区の映画会社よりも格下と見られていた。

 

また、この頃の帝国キネマは、他社と競合する都市部を避け、地方を中心に精力的に営業して上映館を増やしていた。製作する映画も地方の客層を意識したものが多く、そのため「野暮ったい」といったイメージを抱かれたりもする。

 

実際、帝国キネマの社風や経営体質には、「野暮ったい」ところが多々あった。

 

昔の興行界では、興行主が役者や裏方に声をかけて人を集めて劇場主に売り込み、歌舞伎や芝居の興行を行っていた。全員がその場限りの使い捨てといった感じ……。興行師が創立した会社だけに、会社内にはそんな昔の悪しき因習がはびこっている。

 

 

 

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