Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アーティストの孤独は創業者の孤独と対比される

タレルの若いころの話ですが、中国がチベットに侵攻した際には、チベット僧を国外逃亡させる仕事をして、二度、中国軍に撃墜された経験を持っています。相当に飛行技術が高かったようで義勇軍として志願し任務にあたっています。

 

当時、16~17歳だったようです。当然、生死をさまよった経験を持ち、治療のために日本に滞在し、そこで親日家になりました。その後、アメリカに戻り、飛行の腕を見込まれて、トム・クルーズが主演する映画『トップガン』のジェット機の戦闘シーンでは、アクロバット飛行の代役を務めていました。

 

男性であれ、欧米人であろうが、アジア人、アフリカ人であろうが、皆一様にタフなのです。そして自分が生き、経験したことに対して誇りを持っていて、それらの経験をすべてアートに昇華していこうとするのです。幸運も不運もなく、すべてをアートに変えていくのが、アーティストなのではないでしょうか。

 

障がいを持つアーティストも数多くいますが、彼らはそれらを乗り越えて、あるいはそれとうまく付き合いつつ、強烈に生きている、生命を全うしようとしているのです。自分の全てを賭けるそこに私は、人としての真実を感じるのです。

 

「孤独」あるいは「勝手」な存在

 

アートは、思考と感性の純粋な表現物として進化してきました。

 

制作する主体である画家や彫刻家といったアーティストが、自らの想像力と意志により制作したのが、アート作品です。そのためアートは、まったくのアーティスト本位の産物だということです。例外を除いて、クライアントはおらず、誰かに依頼されてつくるといったものでもないのです(たとえクライアントがいたとしても、自由に制作するという基本姿勢は変わりません)。

 

アートが、「誰かに依頼されたわけでもなく、アーティストの独自の思いによって誕生する」というのは、興味深い点です。これは、「勝手に制作している」わけで、自分のためにつくっているということを意味します。

 

もし自分以外が「誰もいらない」と言えば、それは「アート作品として成り立つのか」。このような問いは、興味深いですが、アートは表現物であるという限りにおいて、特定の相手を必要としなくても成り立つものです。そのような観点から考えると、アートはデザインとは明らかに異なっていて、「孤独」あるいは「勝手」な存在です。

 

これは、何らかの組織に属し、その中で仕事をするビジネスパーソンにとっては、想像もできないような環境でしょう。自由が与えられる代わりにすべてが自分次第、一切の社会的・経済的な後ろ盾がないのですから、まさに度胸のいる生き方です。

 

前例のないアートを探求するアーティストの孤独は、ときに自ら事業を立ち上げた創業者の孤独と対比されますが、インターネットのアパレル会社の経営者であったZOZOの前澤友作がバスキアに感情移入し、自らの手元に置くために百数十億円を使って購入したのも、その才能と同時に孤独への共感もあったのかもしれません。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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