地方公務員の約半数は「定年前」に離職
たとえ安定した社会的立場にいる地方公務員であっても、「期待していたやりがいがない」「人間関係に疲れた」「体力の限界を感じた」「家族との時間を増やしたい」「将来に備えてもっと収入を増やしたい」「ケガや精神的ダメージを乗り越えられない」等々の理由で転職を考えることはあるはずです。
定年を迎える前に、どれくらいの地方公務員が退職をしているのか見てみましょう(図表1)。
総務省の『平成30年度地方公務員の退職状況等調査』によると、2018年度の地方公務員の退職者は、12万9892人いました。そのうち定年退職者は7万2112人で55.5%。したがって、退職する地方公務員の約半数は、定年以外の理由で職場を去っています。その内訳を見てみると、自己都合を含む普通退職がもっとも多く4万3775人で33.7%。そして勧奨退職が7749人で6.0%、早期退職募集制度が3881人で3.0%と続いています。
勧奨退職とは、組織側が労働者に対して退職を促すこと。いわゆる「肩叩き」です。公務員においては、役職者や階級の上の者が長期間同じ役職に留まっていると、下の者が昇任できないため、退職を勧められることがあるのです。この制度を利用している地方自治体は意外に多く、2018年度の場合、都道府県では全国47団体のうち33団体(約70%)、町村でも全国926団体のうち234団体(約25%)が行っています。
また、早期退職募集制度とは、職員の年齢構成の適正化による組織活力の維持などを目的として、45歳以上(定年が60歳の場合)の職員を対象とする退職制度です。こちらの制度を利用する地方自治体も少なくなく、全47都道府県のうち16団体(約34%)、全国926町村のうち124団体(約13%)が行っています。
このようなことから、「公務員になれば定年まで安心して働ける」という考えが誤りだということが分かります。
高収入でも転職希望…消防士は「離職者の70%が若者」
ここで消防士の退職者数も見てみましょう。2018年度の消防職退職者は5105人いました。内訳としてもっとも多いのは定年退職で3253人(63.7%)。次に自己都合などの普通退職1356人(26.6%)、勧奨退職223人(4.4%)、早期退職募集制度132人(2.6%)と続きます。
ほかの地方公務員に比べて定年退職の割合は多いものの、それでも退職者の4人に1人以上は普通退職をしているのです。
そして消防職の普通退職者は、比較的若年層が多いことも特徴です。全地方公務員の普通退職者のうち35歳未満が占める割合は次のようになっています(2018年度)。
<普通退職者の年齢割合(全地方公務員の場合)>
25歳未満…13.2%
25歳以上30歳未満…20.2%
30歳以上35歳未満…19.2%
⇒トータル…52.6%
一方で消防職は次のようになっています。
<普通退職者の年齢割合(消防士の場合)>
25歳未満…32.4%
25歳以上30歳未満…27.2%
30歳以上35歳未満…11.1%
⇒トータル…70.7%
このように全地方公務員平均との違いは歴然としています。35歳未満で退職している割合が平均では5割強なのに対し、消防職はなんと7割以上となっているのです。
しかも入署して数年と思われる25歳未満がもっとも多く3割以上を占めます。このことから消防士は、比較的若い時期に転職を考える傾向があることがうかがえます。
面接さえ「お断り」が大半…厳しすぎる転職事情
そこで気になるのが転職事情です。実は消防士を含む公務員は、転職市場において残念ながら有利とはいえません。なぜなら、一般企業では「公務員=つぶしが利かない」という先入観が根強いからです。
具体的には、「指示がないと動けない」「営業経験がない」「office(パソコンソフト)が使えない」「融通が利かない」「利益優先を理解していない」といったことでしょう。かなりきついことを書きましたが、世の中の多くの人は公務員に対してこのようなイメージを持っているのは事実です。
実際に役所の窓口で杓子定規な対応をされたり、電話の問い合わせに対してたらい回しにされたりした経験がある人も少なくないはずです。
最近は、市役所の職員などが民間のマナー研修を受けて接客力がかなり向上しているという話も聞きますが、消防士が同様のことを行っている話は聞きません。そもそも名刺交換やお辞儀などを業務で行うことがないので、学ぶ必要もないのでしょう。
しかし、一般企業では必須のスキルとなります。電話を受けた際の一言目は「お世話になっております」、名刺を受け取ったら「頂戴します」、無理な要求をするお客さまに対しても「できません」とは言い切らない。ここにあげたのはほんの一例です。公務員の皆さんはすべて「知っている」「できる」と言えるでしょうか。
もちろん、このようなことは学生時代のアルバイトなどで学んだ、という人もいるでしょう。しかしながら一般企業の採用担当者の多くは、十把一絡げで「公務員はできない」と考え、面接さえしようとしません。「タイム・イズ・マネー」が身に染みているビジネスマンは、「もしかしたらできるかも」と面接する手間を嫌うからです。
要するに地方公務員の転職は想像以上に難しい、と考えるべきです。このことから、公務員に対する「安心」のイメージは誤りと言えるでしょう。
本橋 亮
宅地建物取引士
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