前回は、売上を増やすことだけに囚われて、本来の目的である利益を忘れてしまうという問題点を取り上げました。今回は、利益を上げるために「粗利率」だけに注目してしまう危険性について見ていきます。

粗利額が増えるような商品構成を考えることが重要

前回に引き続き、儲け上手社長が実践している、儲からない原因を突き止め高収益体質に変える「数字の読み方」を見ていきます。

 

その5 率は無視して額を見る

本連載の第4回で、売上よりもむしろ利益を優先した計画を立てなければならないと述べました。もっとも、その際には利益の「率」よりも「額」を重視することが大切になります。利益を計る指標としては、一般に「粗利率」が用いられています。粗利率とは総売上高に対するトータルな粗利の割合のことです。一般には、粗利率が高ければ高いほど、利益が大きいとみなされています。

 

そのため、利益を上げるためには、何はともあれ粗利率を上げることが大事と思っている経営者は少なくありません。しかし、粗利率を上げるためには粗利が大きなモノをたくさん売ればいいと思い込むこと、すなわち「粗利率が高い商品の売上を伸ばす」ということに過度にこだわってしまうのは危険です。

 

なぜなら、粗利率が高くても、販売単価自体が低ければ、結果的に粗利額が小さくなるおそれがあるからです。重要なのは粗利率の高いモノをがむしゃらに売ることではなくて、トータルで粗利額が増えるような商品構成を考えることなのです。そのような商品構成を実現できれば、たとえ売上が下がったとしても最終的に粗利額が増えているという望ましい結果を得ることが可能となります。

経常利益率が50%よりも10%の方がよいことも!?

「率」よりも「額」が重要であることを示す例をもう一つあげてみましょう。たとえば、以下のようなA社とB社があった場合、両社のどちらが「儲かっている」といえるでしょうか。

 

●A社 経常利益率が50% 売上は100万円

●B社 経常利益率が10% 売上は1000万円

 

B社よりもA社の方が経常利益率が大きいので、それだけを見れば、一見、A社の方が儲かっているように思えるかもしれません。しかし、経常利益率が50%でも売上が100万円であれば、実際に得ている利益は50万円にすぎません。一方、経常利益率が10%でも売上が1000万円であれば、利益は100万円ということになります。実際にあげている利益の額を見比べれば、明らかに、経常利益率が低いB社の方がA社よりも多く儲けていることになるわけです。

「率」に気を取られると事業の根本を見失うことがある

また、「額」よりも「率」を重視する習慣が身に付いてしまうと、誤った経営のかじ取りを行ってしまうおそれがあります。筆者が過去に相談を受けた例でも、経営者が「率」を気にするあまりそのような危険に陥る可能性があったケースがありました。

 

相談者である経営者は、労働分配率が高いことを気にかけていました。労働分配率とは、粗利益額に占める人件費の割合のことで、企業の生産性をチェックする指標として利用されています。具体的には、労働分配率が高い企業は生産性が低いと考えられており、その対策として一般的には労働コストの削減が図られることになります。

 

この相談者も、労働分配率を下げようと人件費の削減を検討していました。決算書を見せてもらうと、確かに労働分配率の数字の高さが目立ちました。しかし、人件費そのものは決して大きくありません。むしろ、従業員1人当たりの給料は非常に低いことがわかりました。つまり、この企業の労働分配率が高い理由は、人件費が大きいからなのではなく、粗利額が低いことにあったのです。

 

にもかかわらず、「労働分配率が高いから、労働コストを削減しなければならない」と経営者が単純に決めつけてしまったら――おそらく、人件費を減らすために、人を減らしたりあるいは給料を削減する方向で経営改革(リストラ)が行われることになるでしょう。しかし、人を減らせば、生産性はさらに低下することになります。

 

また、給料を減らされれば、従業員はやる気を失い辞めてしまうかもしれません。それは、やはり生産性の低下をもたらすことになるでしょう。このように「率」ばかりに目が向いた経営を続けていると、事業の根本を見失うことになりかねません。「率」を見る前に、まずは「額」を見る習慣をぜひ身に付けましょう。

本連載は、2015年11月12日刊行の書籍『「儲かる」社長がやっている30のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「儲かる」社長がやっている30のこと

「儲かる」社長がやっている30のこと

小川 正人

幻冬舎メディアコンサルティング

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