前回は、「粗利率」だけに注目してしまう危険性について説明しました。今回は、経営指標の数字だけを見て、その大小に過度に反応することの危険性について見ていきます。

流動比率は売掛金の「入金のタイミング」によって変動

前回に引き続き、儲け上手社長が実践している、儲からない原因を突き止め高収益体質に変える「数字の読み方」を見ていきます。

 

その6 キャッシュの動きを重視する

経営を計る指標には、粗利率、経常利益率や労働分配率のほかにも様々なものがあります。そうした種々の経営指標は上手に使えば経営に役立てることが可能でしょう。その際には、過度に「率」ばかりを重んじないこと、さらには表面的な数字だけではなくその内実をしっかりと見極めることが大切になります。

 

数字の内実を見極めることがいかに重要となるか、経営指標の1つである流動比率を例にして具体的に見ていきましょう。

 

流動比率は、短期的な債務支払能力を示すもので、「流動資産÷流動負債×100%」の計算式で求められます。流動比率は高ければ高いほど資金繰りが楽になるといわれていますが、その数字を盲信してしまうことは危険です。流動比率の数字は流動資産を構成している売掛金の入金のタイミングによって大きく変動する可能性があるからです。

 

たとえば、3月決算の会社で、期末に、つまりは3月末に売掛金が支払われるはずだったのが、3月31日が日曜日だったためにずれて4月1日になったとします。すると、4月1日に入金されたものについては、売掛金として評価されることになるので、結果的に流動比率が下がることになります。この場合、販売した商品の単価が高ければ、流動比率のパーセンテージは大きく下がることになるでしょう。そのために「流動比率が低くなった、大変だ」と不安を感じることになるかもしれません。

 

しかし、決算書上には表れていませんが、売掛金は確実に回収されているわけであり、期末に起こった偶発的な事情によって流動比率が大きく下がったとしても、実はさほど気にすることはないのです。にもかかわらず、比率だけを見て一喜一憂することになれば、経営者が「期末には高い物を売らないようにしよう、流動比率を上げることを優先させるのだ」などと合理的とはいいがたい経営判断を行ってしまうおそれがあるでしょう。

税理士の意見を鵜呑みにするのは危険

このように、経営指標の数字だけを見て、その大小に過度に反応することは経営を誤らせる危険があります。また同様に、経営指標をもとにした顧問税理士の事業に関するアドバイスについても注意が必要です。税理士の多くは決算書の数字に関して通り一遍のことはいうことができますが、経営者とは置かれている立場が全く異なります。企業経営や業界事情に関する知識が十分に備わっているとはいえないのですから、そもそも事業に関して的確な意見を述べられるはずがありません。

 

にもかかわらず、クライアントである経営者から、「決算書はこのようになっているが、これからの事業運営についてどのような点に気をつけたらいいだろう」などと聞かれれば、顧問税理士の立場としては、さももっともらしいことをいわざるを得ません。専門家の意見だから、と頭から信頼してしまうのは危険です。

 

したがって、経営に関する顧問税理士の意見は、あくまでも参考程度にとどめておくことが適切でしょう。顧問税理士としての立場から個人的な見解を述べさせていただくと、個々の経営状況について具体的なアドバイスをすることよりも、むしろ、決算書の本質や経営者に求められる根本的な姿勢などに関して考えるきっかけを与えることが、役割上重要だと思っています。

本連載は、2015年11月12日刊行の書籍『「儲かる」社長がやっている30のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「儲かる」社長がやっている30のこと

「儲かる」社長がやっている30のこと

小川 正人

幻冬舎メディアコンサルティング

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