Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アートは時代の空気を先取りするものである

芸術家や詩人を、最初に「炭鉱のカナリア」にたとえたのは、カート・ヴォネガットというアメリカの小説家でした。ヴォネガットは、感受性に優れた芸術家をカナリアとして捉えることで、アーティストは世の中の「不穏な空気」をいち早く察知し、警鐘を鳴らし危険を知らせる役目を担うべきであると考えたのです。

 

秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)
秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)

映像インスタレーション、写真、彫刻、舞台作品で、社会システムや集団意識による潜在的な抑圧や支配を批評的に表現してきたアーティスト、高嶺格も、2012年、水戸芸術館現代美術ギャラリーでの個展で次のように述べています。

 

「僕らアーティストは、社会におけるアンテナみたいな存在で、世の中がまだ気づいていないときに、これから起こる大きな変化を察知する、いわば炭鉱のカナリアみたいなものです」

 

アートは時代とリンクすると前述しましたが、アートは時代の空気を先取りするものでもあるからです。

 

19世紀末、第2次産業革命の中で、社会が激変する中、人々がめまぐるしい生活環境の変化に戸惑い、その流れについていくことができない人たちは、自己喪失感や強迫観念を感じ始めていました。そのような時代に・当時の現代アーティスト・であったエドヴァルド・ムンクが《叫び》を描いたのも、機械化により人間が自然から疎外されて孤立した状態を想像し、精神を破壊しようとする近代文明という毒ガスが迫っていることを、カナリアのようにいち早く捉えて警鐘を鳴らしたからではないでしょうか。

 

実際に現代アートは、1980年代からLGBTや地球環境の変化、発達障害やダイバーシティやインクルージョン、サステナビリティやシェアリングエコノミーなどをテーマにしてきました。

 

アートの世界では、人間が空を飛ぶことをギリシャ神話のイカロスの翼の時代や、レオナルド・ダ・ヴィンチの時代から予言していたわけですし、ドローンもいわば、まんが『ドラえもん』の「タケコプター」のようなものです。やがてテクノロジーがドラえもんに追いつき追い越すことで、「どこでもドア」が現実となる時代も来るかもしれません。

 

時代を先取りして映し出すといわれる現代アートには、この刻々と変化する世界を読み解くヒントがたくさん詰まっているのです。現代アートに親しむことで、変化の予兆を誰よりも早く知ることができれば、それだけビジネスチャンスも広がるのではないでしょうか。

 

特に起業家には、人々がまだ気づいていない時代の変化を察知して、新たなビジネスモデルをつくることが求められます。それはアーティストが、未知の世界を描き出そうとする行為にも似ているかもしれません。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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