全国16校しかない狭き門の獣医学部
犬、猫のペット飼育頭数は、15歳未満の子どもの数をずっと上回ってきた。2018年4月現在のデータでは、子ども1553万人に対し、犬、猫の飼育頭数1855万頭だった。
ただし、一時期のようなペットブームは過去のものとなり、年々減少傾向にある。
2020年4月時点でのデータでは、15歳未満の人口も1512万人と減少しているが、先頃、2020年12月23日に発表された、犬、猫の飼育頭数は、犬が848万9000頭、猫が964万3000頭だった(一般社団法人ペットフード協会調べ)。
人間の出生率の低下、高齢化。他には、旅行などの長期外出ができない不自由さ、お金がかかる、死別などの別れが辛い、世話に手間がかかる、集合住宅でペットが禁止されているといった要因によるという。
しかし、その一方で、少子化の現在、家族の一員、我が子同然のように、生活をともにする飼い主も多く、ペットとの関わりはより強くなっているとも思える。ペットから癒しを得る、アニマルセラピーという言葉もすっかり定着している。
先の2020年12月23日の調査結果では、2020年1年間の新規飼育頭数に限っては、犬が46万2000頭(前年比14%増)、猫が48万3000頭(前年比16%増)だったという。
コロナ渦での影響を示す回答は特になかったと協会は説明するが、コロナ禍の影響が少なからずはあったのではないかと、私は思う。
そんな動物たちの健康管理と病気治療に携わるのが獣医師だ。
2020年3月13日、第71回獣医師国家試験の合格発表があった。農林水産省管轄の国家試験である。
受験者数は1183人(新卒者985人)、合格者数は1023人(928人)。全体の合格率は86.5%(新卒者94.2%)と、前年比3.9ポイントアップという結果だった【獣医師試験「大学別合格者ランキング】。
獣医学課程を持つ大学は、専門大学を含め、全国で16校しかないため、狭き門といわれる(17校目の岡山理科大学(加計学園)獣医学部はまだ国家試験受験者を出していない)。
獣医学生は、子どもの頃から、動物に対する思い入れが強く、“動物のお医者さん”を目指していたというタイプが多い。家で動物を飼っていた、家畜農家を営んでいる家庭で育ったなどというケースも多いだろう。そんなモチベーションの高い受験生が多い獣医学部は人気が根強く、大学受験における難易度も高い。
この獣医師国家試験について、医師、歯科医師国家試験と同様に、偏差値と国家試験合格率を比較しながら見ていきたいと思う。
合格率は総じて高い。新卒者では合格率の平均は94.2%だ。16校中14校は、90%を越えており、80%台は、山口大学(共同獣医学部)の84.8%、酪農学園大学(獣医学群獣医学類)の82.9%の2校のみだった。
ここで毎回注目なのが、最難関校の東京大学だ。獣医学は、農学部のなかに農学生命科学研究科獣医学専攻として存在する。
国家試験合格率では、90%台の14校中14位の92.3%という成績に甘んじている。14位に甘んじた原因は定かではないが、医学部同様、偏差値に比して低い成績だと言える。
国立大学のなかには、欧米水準の獣医学教育実施に向けて、共同教育課程を展開する大学もある。教育を充実させる苦肉の策と言えなくもないが、その努力は評価できるだろう。
たとえば、北海道大学(獣医学部共同獣医学課程)と帯広畜産大学(畜産学部共同獣医学課程)、岩手大学(農学部共同獣医学科)と東京農工大学(農学部共同獣医学科)、岐阜大学(応用生物科学部共同獣医学科)と鳥取大学(農学部共同獣医学科)、山口大学(共同獣医学部)と鹿児島大学(共同獣医学部)などがその例だ。
これも獣医学部における大きな特徴といえるだろう。
今後、共同教育課程により国家試験合格率のみならず、獣医学の教育全般において功を奏するのではないだろうか。
ちなみに、この共同教育課程を実施するなかから、帯広畜産大学と岐阜大学が今回100%の合格率を達成している。