2025年には「人口の3分の1が65歳以上」になる
超高齢社会を迎えている日本では、介護へのニーズがますます高まる一方、介護職員の不足が大きな問題になっています。
現在、日本は世界でも類を見ない超高齢社会を迎えています。1947~1949年の第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年頃には、人口の約3分の1が65歳以上の高齢者になると予測されています。
そしてそれを機に、医療費や社会保障費の急増など、さまざまな問題がいっそう深刻化すると懸念されているのです。これがいわゆる「2025年問題」と呼ばれるものです。
◆高齢者の増加で、介護職員の不足が深刻化
高齢者が増えるということは、介護を必要とする人の数も増えるということです。実際に要介護認定者数は、2000年の218万人から2016年の623万人へと急増、今後もさらに増え続けると予想されています。
要介護者が増え、介護のニーズが高まる一方で、現在、介護職員の数は不足している状態です。2025年度には、実に38万人もの介護職員が足りなくなると推測されています。
人材不足は、介護施設の運営責任者にとっても大きな問題です。人材が不足すれば要介護者を受け入れることはできませんし、施設運営にも大きく影響することは間違いありません。
介護現場の「ネガティブイメージ」が人材不足を招く
増える需要に対し、介護人材は不足し続けています。ネガティブなイメージが、介護職を目指す人を遠ざけているのです。
◆強い「ネガティブなイメージ」が人材不足の原因
介護の仕事は、一般的に「きつい」「大変」だという印象を持たれています。「社会的に意義のある仕事」や「やりがいのある仕事」というポジティブなイメージを持つ人は多いものの、同時に、「体力勝負の“きつい”仕事」「排泄介助など“汚い”仕事」「腰を痛める、集団感染するなど“危険”な仕事」というネガティブなイメージを持つ人も少なくありません。
実際の現場に目を向けてみると、「職場の人間関係」が大きな問題になっていたりもします。「介護労働実態調査」によると、仕事を辞めた25.4%の人が「職場の人間関係に問題があった」と答えています。
介護現場は学校を卒業したばかりの10代から、60代~70代までが活躍する「異文化の融合体」のような場所です。幅広い世代とコミュニケ―ションをとりながら仕事をしていかなければならず、壁にぶち当たってしまうこともあるようです。
また、「利用者の立場に立った介護ができると思ったのに、実際はそうではなかった」など「法人の理念のあり方に不満があった」という場合もあります。
◆人材不足からさらなる介護職の離職へ
人材不足、職場の人間関係……。こうした問題は介護の現場で働く人材にとっても大きな負担となり、さらなる離職を招きます。「介護労働実態調査」(2018年度)によれば、2018年度の介護職員の離職率は15.4%でした。これは、全産業の平均14.6%と比べてそれほど高くはありません。
しかし、労働条件等の不満を問われると、50.9%が「人材が足りない」と答えています。近年では、事業所が早期離職防止や職員定着促進のために、給与や福利厚生などの面でさまざまな対策をとっており、働きやすい環境が整えられています。実際、同調査では、65.5%が「今の仕事を続けたい」と回答しています。しかし、根本の問題である人材不足を解消し、職員の負担を軽減させなければ、そうした努力だけでは対処しきれなくなってしまいます。
人材不足が招く「スピード重視」「効率優先」の介護
高い志を持って介護の仕事に就いたにもかかわらず、圧倒的な人材不足の中で仕事に追われ、利用者を中心に考えた介護が実践できないと悩む介護職員も多くいます。
「利用者がたくさんいるのに、介護職員の手が足りない」というのは、今の介護の現場によくある光景です。そして、少ない人数でより多くの利用者に対応するために、スピード重視、効率優先にならざるを得ないという事業所が非常に増えています。利用者を中心に考えた介護を実践できていないことに対しては、実際に働く介護職員たちも自覚し、心を痛めているようです。
大阪府社会福祉協議会の「特別養護老人ホームにおける『介護職員の業務に関する意識調査』報告書」によれば、「食事や入浴」「排泄」「余暇行動」「外出」について「利用者中心介護はどの程度行っているか」という質問をしたところ、ほぼすべての項目で半数以上の介護職員が「不十分」または「やや不十分」だと答えました。
特に「利用者は自分で選んだ時間に食事をとることができる」と「利用者は自分で選んだ時間に入浴ができる」という質問では、8割以上の介護職員が「不十分」または「やや不十分」だという回答でした。
介護の仕事は体力勝負であることはもちろん、利用者への気配りや目配りをしなければならないうえ、専門的な知識や技術も求められます。仕事内容も排泄介助や口腔ケア、服薬やリハビリ支援など多岐にわたり、その一つひとつをこなしていくだけで大変な労力になります。
日々、食事の介助や、入浴介助など分刻みのスケジュールに追われ、夜勤もあります。さらに転倒事故など、常に危険と隣りあわせで、気が抜けません。そのうえで利用者一人ひとりに寄り添った介護を行わなければならないのです。
「利用者のために」という目線を失ってはいけない
少ない人数で限られた時間の中、より多くの利用者に対応するためには、どうしてもスピードや効率を優先せざるを得ない場面も多くあります。介護に携わる人の多くが「できることなら、利用者一人ひとりに対して十分な対応をしたいが、今の状況ではどうすることもできない」というジレンマを抱えているはずです。
しかし、いくら介護職員が足りないからといって、「忙しいのだからしかたがない」とあきらめ、介護の本来の目的であり、大切な理念でもある「利用者のために」という目線を失ってよいはずがありません。なぜなら、利用者からの信頼を失うことになるのはもちろん、介護職員全体のイメージダウンにつながることになりかねないからです。
多くの介護職員は、日々、高齢者の自立を支援するために精いっぱい努力し続けています。しかし、効率だけを重視して、利用者の満足度を優先できない介護にいつしかやりきれなさを覚え、やりがいを失ってしまうことにもつながります。