グローバル化に伴い、ますますコミュニケーション能力が重視されてきました。しかし多くの日本人は、「コミュニケーション」に関して、誤った認識をしているかもしれません。本記事では、グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社・布留川勝取締役社長の書籍『パーソナル・グローバリゼーション』(幻冬舎MC)より一部を抜粋して解説します。

コミュニケーションに対する日本人の誤解

コミュニケーションについて日本人ビジネスパーソンが誤解していることがある。それは「あなたはコミュニケーション力はありますか?」あるいは「あなたのコミュニケーション力について教えてください」といった質問をすると分かる。あなたならどう答えるだろうか?

 

多くの場合こうなる。「私はコミュニケーション力には自信があります」「生まれつきコミュニケーションはあまり得意じゃないですね」など。これらの答えにはコミュニケーションは先天的あるいは性格的な条件で、訓練によって習得できる部分は少ないという誤った認識が潜んでいる。コミュニケーションの能力は「生まれる」もので「育てる」ものではないという考えだ。

 

もちろんコミュニケーションのスキルがなんらかのかたちで成長したと認知する場合もないわけではないが、それらはほとんど経験値の問題に集約されてしまう。「大人数の部下を指揮したことがあるので、大人数相手のコミュニケーションには自信ある」とか、「新人を教育したことがあるので、新人とのコミュニケーションには慣れている」など。

 

決定的に欠けているのは、コミュニケーションがトレーナブルなものであり、そのスキルにはシチュエーションや目的によってさまざまなバリエーションがあるという認識である。人柄や経験で左右されるコミュニケーションのスキルがすべてではないことに注意したい。

 

コミュニケーションの能力は「育てる」もの
コミュニケーションの能力は「育てる」もの

「賃金引下げの話」をどうやって部下に伝えるか?

さてグローバル企業のマネージャーに「あなたはコミュニケーション力はありますか?」という質問をしてみよう。するとどういった答えが返ってくるだろうか。

 

「私はプレゼンテーションとネゴシエーションのスキルは確立していますが、コーチングおよびファシリテーションについてはもう少し磨く必要があると考えています」

 

この違いをお分かりいただけるだろうか。彼らは、コミュニケーションをビジネススキルとして明確に認識し、それが習得可能であることを知っているのだ。プレゼンテーションとネゴシエーションについてはみなさんもよく知っていると思うので、残りについて解説しよう。

 

コーチングはいわゆる引き出し型といわれるコミュニケーションスキルで、相手に答えがあるという前提で、相手の潜在能力やすでに得ている知識を引き出していくものである。

 

コーチングは、ティーチングと対比してみると分かりやすいだろう。ティーチングは相手に知識を教え与えるスキルだ。相手から引き出すのではなくて、相手に対して自分の知識や経験を付与していく。またカウンセリングということばもよく使われるが、これはメンタル面で援助を求める相手の相談にのり解決策を共に考えていくスキルである。

 

コミュニケーション力の非常に高いビジネスパーソンというのは、これらのスキルを場面によって使い分け、駆使することができる。協働相手の潜在能力をコーチングによって引き出し足りない知識をティーチングし業務を進め、何らかの問題に相手が陥った場合にはカウンセリングしモチベーションを保つ。

 

こうした協働相手に恵まれると、あなたの能力は思ってもみなかったほどパワフルに発揮されることだろう。そしてあなたがこのスキルを習得すれば、協働相手の潜在的な能力を十分に引き出すことができるだろう。

 

ファシリテーションという言葉もよく耳にするようになった。ファシリテーターを促進役というふうに説明することも多いが、ファシリテーションとは簡単にいうと1対複数のコミュニケーションスキルを指す。コーチングが1対1のコミュニケーションスキルであることと大きな違いがある。

 

たとえばあなたが事業部長であるとする。今日、課長を15人集め、賃金引下げの話をすることになった。会議室に入っていって、あなたはこういうとしよう。

 

「今回は君たちが非常によくやってくれたのに、10%の減俸があるというのは私も耐えるにしのびない。私も役員に反対したが、役員のA氏から課長にも責任があるのだから当然の処置だといわれた。やむなく私も同意したがどうか理解してほしい」

 

これはファシリテーションできているとはいえない例だ。なぜかというと、あなたが部下の立場になってイメージしてみれば分かるだろう。

 

部下である課長たちは、あなたの発言をどう解釈するだろうか? この会議は単なる通達でしかなく課長たちは共に耐えることを要請されているにすぎない。そこに事業部長の考えはなく、役員の考えを代弁しただけなのだ。この説明で課長たちのモチベーションを維持できるだろうか? 今後、同様の問題が発生した場合、課長たちはどう対処すればいいかのヒントすらないのだ。

 

ここでファシリテーションのスキルを身につけていれば、事態は異なる。たとえばあなたは課長たちに対し「君たちの不満を十分に理解したい。みなで意見を述べてほしい」といい、15人全員から不満や考えを引き出す。それらの意見を受け止めて、発言された意見から本当に自分たちに責任があるのかどうかを課長たちが理解できるようにディスカッションを促進するのだ。

 

課長たちが、それこそ今回の利益が達成できなかったことを納得したうえで「この危機をみんなで結束して乗り切ろう」とみなの方向性とモチベーションを一致させること。これが理想的なファシリテーションである。

 

ファシリテーターは促進役ではあるが、単なる司会のことではない。意見を調整し問題を抽出し、認識を一致させ方向性を引き出して解決に向かって推進するという役目なのである。

 

話は冒頭の質問に対する日本人ビジネスパーソンとグローバル企業のマネージャーとの答えの違いに戻るが、グローバル企業のマネージャーの答えには、コミュニケーションを分析的に捉え、ビジネスにいかに活用するかが見える。

 

コミュニケーションを性格的な要因や経験値などで考えているだけでは、本質を捉えていない。あまり知られていないことだが、グローバル企業のプロフェッショナルたちはワークショップや個人コーチを使って、コミュニケーションのトレーニングを継続的に受けている。コミュニケーション力とはトレーナブルなスキルなのだ。

 

コーチングやファシリテーションについて詳しく説明しようとすると、それだけで1冊の本になるほどのスキルであるから、詳しくは専門書を当たっていただきたいが、コミュニケーションは、このようにバリエーション豊かであり、それぞれがトレーナブルなスキルである。その効果をパワフルに活用することで、あなたのパーソナル・グローバリゼーションは大きく前進することだろう。

 

 

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布留川 勝

幻冬舎メディアコンサルティング

変化の激しいグローバル化時代に必要とされるスキルについて、数多の日本企業のグローバル人材育成をサポートしてきたグローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ。 代表取締役の布留川勝氏がグローバル…

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