資産家一族の長として采配を振るっていた母、結婚以来ずっと身の置き所がなかった父。母が亡くなり、相続が発生しますが、子どもたちは父と折り合いが悪く、話し合いを持つことすらできません。父が母の遺産を好き勝手にするのではと、子どもたちは気が気ではありませんが、納税期限は刻々と迫ってきます。みんなが納得する着地点は探せるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

実権を握る母、頭の上がらない父、家族に無関心な弟

今回の相談者は、40代の会社員の松下さんです。資産家の母親が亡くなり、長年関係の悪い父親と、母親の遺産を巡ってトラブルになっているということでした。

 

 

松下さんの母親の実家は代々続く地主です。しかし、祖父母は娘3人しか授からなかったため、長女である松下さんの母親が必然的に跡取りとなりました。松下さんの父親は婿養子となることを条件に迎えられたのですが、その約束は果たされず、最後まで養子縁組してもらえませんでした。

 

そのような経緯もあり、日頃からすべて松下さんの母親が主導権を握っていました。祖父が亡くなったときの相続では、当然ながら松下さんの父親には相続権はなく、ほとんどすべての財産は母親名義となったのです。自宅のほか、複数ある収益不動産が母親名義なのですから、どうしても母親の立場が強く、父親の存在感は限りなく薄くなりました。

 

自宅は父親が落ち着ける場所ではなく、普段から夫婦仲は最悪だったそうです。父親も自分の給料を家に入れるどころか、全部使ってしまうというありさまで、ほとんど家に帰ってこない状態でした。普段から父親の愚痴ばかり聞かされてきた松下さんは母親の味方で、家族のもとに寄り付かない父親を信頼する気持ちはありません。弟は昔から家族のことには一切無関心です。

 

しかし、母親は60代半ばにして病に倒れ、半年間の闘病の末、あっけなく亡くなってしまったのです。財産は約1億8000万円。相続税の申告は避けられない金額です。

 

●相続人関係図と資産状況

 被相続人:母親(60代、不動産賃貸業)
 相続人 :父親(60代、定年退職後は年金と配偶者の不動産収入で生活)
     :長女(40代、既婚、会社員、隣県に居住)
     :長男(30代、未婚、会社員、父と実家で同居)
相続財産 :自宅土地建物、貸家、賃貸アパート、現預金

話し合いがままならず、業を煮やした長女は…

松下さんは結婚してから10年近く経ちますが、父親への不信感は変わりません。母親が亡くなったことを幸いに、父親が好き勝手に母親の財産を使うのではないかという不安が先に立ちました。

 

葬儀のときから父親とはすでにギクシャクしていたので、実家で通帳や現金の確認をしてみましたが、普段は離れて暮らしているため、わからないことばかりです。父親と話をしても、のらりくらりとかわされてしまい、このままでは相続手続きはなにも進みません。弟はやはり無関心で、協力的な態度を見せません。

 

松下さんは仕方なく、家庭裁判所に遺産分割協議の調停を申し立てました。調停は二度行われましたが、とても話し合いにならない状況で、とうとう調停員もさじを投げてしまいました。困った松下さんは相談先を探し、筆者のもとに来られたのでした。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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