資産家一族の長として采配を振るっていた母、結婚以来ずっと身の置き所がなかった父。母が亡くなり、相続が発生しますが、子どもたちは父と折り合いが悪く、話し合いを持つことすらできません。父が母の遺産を好き勝手にするのではと、子どもたちは気が気ではありませんが、納税期限は刻々と迫ってきます。みんなが納得する着地点は探せるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

父親への連絡窓口として、父親の実弟に協力を依頼

まずは父親の真意を確認することからスタートしないといけないのですが、肝心の父親と関係が悪化しており、連絡すら取れません。自宅にも用があるときにしか戻らないような状況が続いていました。そこで、父親が信頼している実弟から連絡を取ってもらうように協力を依頼しました。すると、数日後に連絡がついたのです。

 

 

くわしく父親に話を聞いてみたところ、家庭裁判所に申し立てをした松下さんにひどく腹を立てており、最初は、財産などどうなってもいい、とにかく何も協力するつもりはない、というかたくなな態度を崩しませんでした。実際、父親は二度の調停でも、長女が分割案を出したことに対して歩み寄りはできないということだけを、強硬に主張していました。

 

松下さんの父親から直接聞いた本人の気持ち・置かれた状況をまとめると、下記のようになります。

 

●父親である自分と2人の子どもたちの間に信頼関係が築けていない

●話し合いが持てないほど家族間の人間関係は希薄になっている

●相続の際にイニシアチブを取ろうとする長女に対して立腹している

●子どもたちが幼いころより家に居場所がなく、配偶者の死後はほとんど戻っていない

●配偶者の父親と養子縁組してもらえなかったが、今回がはじめて財産をもらえるチャンスとの認識があり、自分の権利は確保したいと考えている

●配偶者の存命中は窮屈な思いで生活していたので、今度こそ自由に生きていきたいという気持ちがある

 

しかし、期限までに遺産分割が決まらないと、とりあえずは未分割で申告することになり、その後、分割が決まったときに修正申告をしなければなりません。二度手間となるばかりか費用も余分にかかり、特例も使えません。また、預金の解約もできないため、いつまでも手元に現金が入らないのです。こうした未分割の不利益を説明すると、「それは困る」と理解を得ることができ、協力しようという気持ちになってもらえました。

子どもたちが相続したい不動産を明らかにし、父と共有

父親の希望としては、自分の法定割合分は確保したいとのこと。ところが、松下さんと弟は父親に好き勝手にされたくないという思いがあります。また、相続税で現金が減ることにも不安がありました。

 

そこで、まずは松下さんと弟の2人が最終的に相続する不動産を決め、それを配偶者の特例を最大限に利用できる割合で父親と共有にしました。弟は自宅と貸家、松下さんはアパートという分け方で、地元に残る弟に多く渡したいという、松下さんの配慮に基づいた配分でした。

 

今回は配偶者の特例があり、すべてを父親のものにすれば相続税はかかりませんが、それでは父親だけの権利になり、不本意だということです。父親も法定割合分が確保できればいいと考えていたので、節税しながら子どもと共有することで全員の合意が得られました。 その後、父親には公正証書遺言を作成してもらい、共有者に相続させる旨を明記しました。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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