「なんでこんな状態になるまで…」息子が見た“異常な光景”
「寒い、動けない…」
深夜0時過ぎ、東京都内に住む会社員の川井俊樹さん(仮名・56歳)のスマートフォンが鳴りました。発信者は、地方に一人暮らしをしている母・百合子さん(仮名・84歳)から。
「夜中に何かあったのかと思って電話に出たら、絞り出すような声で“寒い、助けて”とだけ言われて。慌てて車を走らせて朝5時に実家に着いたんです」
鍵の隠し場所を知っていた川井さんが玄関を開けると、そこには想像を絶する光景が広がっていたといいます。
「暖房がついていないのはもちろん、電気もガスも止まっていて、冷蔵庫は空っぽ。食卓には、カビの生えた食パンと乾いた煎餅の袋だけ。母は毛布にくるまってソファで震えていました」
後日、母親の百合子さんがようやく落ち着いたタイミングで、川井さんは事情を聞きました。
「実は何ヵ月も前から電気代やガス代の支払いが滞っていて、何度も督促状が届いていたそうです。でも、母は“払えないからって息子に頼りたくない”って。年金月額は約11万円。それで家賃、医療費、食費…全部まかなうのは無理があったんでしょう」
税金の滞納もあり、役所からの通知も放置していたことが後からわかりました。近年、高齢者の中には「子どもに迷惑をかけたくない」「生活に困っていることを知られたくない」と思うあまり、生活困窮を一人で抱え込むケースが少なくありません。
総務省の『家計調査(2024年)』によると、単身高齢者の月間消費支出のうち、光熱・水道費は約1万5,000円であり、冬季や猛暑時にはこれが大きく跳ね上がることもあります。
さらに、物価上昇とエネルギー価格の高騰が重なり、2023年から2024年にかけては電気・ガス料金の値上げが相次ぎました。政府はこれを受けて電気・ガス価格の激変緩和措置を講じてきましたが、その補助は2024年5月使用分(6月請求分)をもって一旦終了しています。
その後、2025年夏には一部家庭を対象とした限定的な支援が再開されましたが、従来のような広範かつ継続的な補助制度とは異なり、範囲も時期も限定的なものにとどまっています。
