シカゴ美術館付属美術大学での“ある実験”
すでに1960年代半ば「正しい問いを立てること」の重要性は、シカゴ大学の社会科学者ジェイコブ・ゲッツェルスとミハイ・チクセントミハイが、近くのシカゴ美術館付属 美術大学の4年生、40人弱を被験者とした実験により指摘されています。
まず学生たちを大きなテーブルが2つ置かれたスタジオへ連れて行きます。片方のテーブルには、奇抜なものから平凡なものまで、絵画の授業でよく使われる静物画の材料が27個置いてあります。チクセントミハイは学生に、その中からいくつでも好きなものを選んで、もう片方のテーブルに配置して静物画を描くように指示しました。すると若い芸術家たちの取り組み方は、2つに分かれたのです。
一方の学生たちは、少数の材料を検証して、絵の構想を素早く組み立て、すぐに静物画に取りかかりました。逆に、いくつもの材料を手に取って、ああでもない、こうでもないと何度も配置を直し時間をかけて絵の構想を練り、それが決まってからやっと静物画に取りかかった学生もいました。
チクセントミハイによれば、前者の学生は、問題を「解決」しようとする、モチーフの並びよりも、絵の描き方を問題にして、どうしたらいい絵を描けるだろうかと考えたグループでした。一方、後者の学生は、絵の構想そのものに時間をかけ、自分が納得するまでモチーフを並べ直す、つまり、絵をうまく描くかどうかではなく、どのように自分が望む世界を提示できるのかを与えられたモチーフから探していた、もしくは発見しようとしていたグループでした。後者は、個々の学生が抱く「自分らしさ」という問題を「発見」しようとしていたといえないでしょうか。
その後、チクセントミハイは小さな美術展を開き、美術専門家に学生たちの作品の評価を依頼したところ、問題提起タイプの学生の作品のほうが、問題解決タイプの学生の作品よりもはるかにクリエイティブであるとの評価が、下されたのです。
さらに卒業して、社会人となっていた被験者の学生たちを追跡調査して、生活の実態を調べてみました。すると、半数は美術の世界とは縁が切れていましたが、もう半数はプロの芸術家として仕事をしていて、そのほぼ全員が問題提起タイプだったのです。
このことからシカゴ大学の社会科学者2人は、自ら「問い」をつくり出す力こそ、作品の創造性やオリジナリティと相関すると結論づけました。