欧米では「アート」は身近にある存在
イノベーティブな発想とアート
ビジネスパーソンが、アーティストの創造性やものの見方を学んだからといって、すぐに彼らのような感性や思考法が身につくわけではありませんが、人生のどこかで行き詰まったとき、常識的ではない別の観点・視点で考えたいときに、アートはきっと役に立ちます。
なぜなら絵を描くことや見ることといった芸術体験は、一種の「常識からの逸脱行為」だからです。アートはどこか常識を破ったところにあるものであり、その時代の合理性や論理だけでは測ることができないものです。我々は知らず知らずのうちに、常識にとらわれていますが、アーティストはそれらを軽々と乗り越えていきます。
ビジネスにおけるイノベーションもまた、そのような「常識からの逸脱行為」によって、生まれてくるものではないでしょうか。
そもそも「アートはビジネスにとって有用なのか?」といった問いが投げかけられる時点で、日本におけるアートの位置づけが、いかに特殊なものなのかがわかります。対照的に、欧米ではビジネスエリートたちにとって、アートはきわめて身近にある存在です。
単に文化的な教養としてのアートというだけの領域にとどまりません。ある経営者にとっては、経営哲学を学ぶ場所であったり、自らの創造性を飛翔させ、さらに磨きをかけるための対象であったりするのです。
イノベーティブな発想をするビジネスパーソンであれば、アートとの相性はいいはずです。ビジネスパーソンもアーティストと同様にクリエイティブな発想で仕事をすることが、仕事における新たな領域を切り開いていく上では必要だからです。
デザイン思考とアート思考
ここで、アート思考について考える前に、まずは、デザイン思考について考えてみます。この二つは、まったく異なる手法です。
まず、デザイン思考とは何か? を整理しておきましょう。
デザイン思考とは、一九八七年に建築家ピーター・ロウが、その著書『Design Thinking』(邦題『デザインの思考過程』/鹿島出版会)において、はじめて著作物のタイトルに採用して登場したものです。
ロウのデザイン思考は、建築家あるいは都市計画立案者によって利用されてきた問題解決プロセスをシステム思考に基づいて説明をしようとするものでした。その後、一九八〇年代から九〇年代にかけて、スタンフォード大学教授のデビッド・ケリーらにより、デザイン思考は「デザインを通じて人間の困難な課題を扱うもの」だとの見解が打ち出され、ビジネスへの応用が唱えられ始めます。