「このみそ汁の豆腐の切り方が揃っていない。」
「このみそ汁の豆腐の切り方が揃っていない。きちんと四角を揃えて切らないと、お客さんが来た時、笑われるからな」と怒鳴った。
「はい、気をつけます」と、私はみそ汁の中の白い四角形を見つめながら、精一杯明るく答えた。定規で測って切らなければ満足してもらえない劣等感にさいなまれる。
人は環境に順応していく能力が備わっている。はじめは多少の違和感を感じるが、ここで生きていかねばならない時、適応する力が発揮される。そうしなければここでは生存不可だ。
私には、今の居場所からいなくなるという選択肢は、この時はまだなかった。それとは正反対に、一日も早く家風に馴染む努力をしていこうと意欲的で前向きな気持ちでいた。頑張ったら何とかなると思っていた。
フーッと息を吐いた。息を吸い込もうとした次の瞬間、電話がリリリリンと鳴った。私は急いで受話器を取った。
「はい、風間です」
「浅川ですが、社長いますか?」と、社長と言う響きに一瞬戸惑ったが、すぐに判断した。電話の相手は、福島訛りの年配の男の人だった。声には張りがあった。
「はい。少々お待ち下さい」と返し、社長へ繫いだ。
「浅川さんからお電話です」
すると、意外な言葉が返って来たのだ。
「どこの浅川さん?」
会社名は名のらなかったので、会社関係の人ではないのだろう。どこに住んでいるかは不明であった。しかし、受話器はすでに舅の手中にある。左手で電話口は塞いであったが、私に質問するより出た方が早いし、相手も待たせずにスムーズにいくのではないかと、幾つかの疑問が頭を一周ぐるりとめぐった。その中で、最善な言葉を選んだ。
「分かりません。出て下さい」
すると、舅は社長らしい口調で喋った。