「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。

トイレットペーパーは機密情報が詰まった磁気カード

わが家のトイレは情報セキュリティ万全!

 

じーじは、使用済みのトイレットペーパーを機密情報が詰まっている磁気カードだと思い込んでいる。最近は、磁気カードの存在を忘れたのか、磁気カードという名の使用済みのトイレットペーパーを後生大事にしまうことはしなくなり、ほっとしていた。その矢先、事件は起こった。

 

ここ数日、じーじがトイレに入ったあとには、必ずトイレットペーパーがぽわ~んと浮いているではないか。一度目は、「あ~、流すの忘れちゃったのね」と、じーじには何も言わず水を流した。しかし、何度もトイレットペーパーぽわ~んに遭遇すると「認知症の症状が進行して、トイレの使用後には流す、という動作を忘れてしまったに違いない」と思うようになった。

 

心優しい娘である私は、じーじの自尊心を傷つけないように「トイレのお水は流しましょう」と、紙に書いてトイレのタンクに貼ってみたものの、その後も流す様子はなし。

 

じーじは、使用済みのトイレットペーパーを機密情報が詰まっている磁気カードだと思い込んでいる。(※写真はイメージです/PIXTA)
じーじは、使用済みのトイレットペーパーを機密情報が詰まっている磁気カードだと思い込んでいる。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

新聞は読めるんだから、文字が読めなくなったわけではなさそうだし、これは何かわけがあるのか! などと思いつつも、毎度のことに、ついイラッときて「じーじ、トイレ使ったら水は流してね」と言ったところ、じーじの認知星人のスイッチON!

 

「お前は何を言っているんだ、流したら、機密情報も一緒に流れてしまうんだぞ。あれはな、溶ける紙でできていて、ある特定の人物が情報を確認した後に自然に溶けるように出来ているんだ。だから流さないんだ」と。おまけに「情報が確認されたあとは、溶けるから心配するな」と涼しい顔。

 

あっちゃ~、まだ、トイレットペーパーは磁気カードだったんだ。そりゃあ、トイレットペーパーは溶けるけどさあ……と思いつつ。

 

……ピカッとひらめいた!

 

そこで、今度はトイレのタンクに「このトイレは、情報セキュリティを万全に設定しています。埼玉県下水道局」と書いて貼ってみた。

 

その後トイレに入ったじーじ「埼玉県の下水道局はすごいな、セキュリティがしっかりしているらしい」とご満悦の表情。

 

やった~作戦成功。この日以降、じーじはトイレを流すようになりました。めでたし、めでたし。

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