「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。

「これから、仏壇をぶっ壊す!」認知症父の暴走

怒りん坊将軍見参!

 

ここ数週間、じーじは机をバンバン叩いて怒ることもなく、とても穏やかだった。「そりゃぁそうよ。だって、認知症対応の5原則*を実践しているもの。こんな女神様のような娘はいないわよ」と、自画自賛していたが、事件は起こった。

 

突然、鬼のような形相で、キッチンへやってきたじーじは、桐の箱に入った私と弟のへその緒をダイニングテーブルの上に叩きつけた。

 

「これから、仏壇をぶっ壊す!」

 

出た! 久しぶりの認知星人怒りん坊将軍バージョン。

 

認知症対応の5原則を実践していても、認知症父のじーじは豹変するという。(※写真はイメージです/PIXTA)
認知症対応の5原則を実践していても、認知症父のじーじは豹変するという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

でもなんでへその緒? どこから探して来たの? なんて悠長なことを考えている場合ではないほど、じーじは頭から湯気を出して、机をバンバン叩いているではないか。私が「どうしたの?」と聞いても「なんでオレがこんな恥ずかしいめにあうんだ」と、答えにならない答え。どこで怒りん坊星人のスイッチが入ったんだろうと原因を探るも思い当たらない。

 

「オレに死ねと言うのかぁ~」

 

出た! 久しぶりに聞いたじーじの捨て台詞。しかし、なぜ? へその緒? なぜ? 仏壇を壊す? そしてますますエスカレートするじーじの口から出た言葉はなんと、

 

「これから自害するから介錯しろ」

 

じ! 自害! 死ねというのかぁ~が自害にバージョンアップしてる。ヤバい! と思いつつも、ここは静観することにした。しかし、じーじは「自害する」と言いながら家中をくるくると何かを探しながら歩き回っている。

 

先回りして、自害できそうなハサミや包丁を隠していると、

 

「自害するから介錯しろと言っているのに聞こえないのか~」と、ますますヒートアップ。「やだよ、殺人ほう助罪になっちゃうもん」と答えたところ、急に地球人の顔に戻ったじーじは、


「なに? ほうたい? そういえば、包帯はどこにある?」
「……」

 

ほう助が、包帯に聞こえて、一件落着(笑)。

 

その後、何もなかったように、朝食を食べるじーじであった。

 

認知症対応の5原則
(1)否定しない (2)𠮟らない (3)無視しない (4)嘲笑しない (5)バカにしない

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

黒川 玲子

海竜社

わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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