「これから、仏壇をぶっ壊す!」認知症父の暴走
怒りん坊将軍見参!
ここ数週間、じーじは机をバンバン叩いて怒ることもなく、とても穏やかだった。「そりゃぁそうよ。だって、認知症対応の5原則*を実践しているもの。こんな女神様のような娘はいないわよ」と、自画自賛していたが、事件は起こった。
突然、鬼のような形相で、キッチンへやってきたじーじは、桐の箱に入った私と弟のへその緒をダイニングテーブルの上に叩きつけた。
「これから、仏壇をぶっ壊す!」
出た! 久しぶりの認知星人怒りん坊将軍バージョン。
でもなんでへその緒? どこから探して来たの? なんて悠長なことを考えている場合ではないほど、じーじは頭から湯気を出して、机をバンバン叩いているではないか。私が「どうしたの?」と聞いても「なんでオレがこんな恥ずかしいめにあうんだ」と、答えにならない答え。どこで怒りん坊星人のスイッチが入ったんだろうと原因を探るも思い当たらない。
「オレに死ねと言うのかぁ~」
出た! 久しぶりに聞いたじーじの捨て台詞。しかし、なぜ? へその緒? なぜ? 仏壇を壊す? そしてますますエスカレートするじーじの口から出た言葉はなんと、
「これから自害するから介錯しろ」
じ! 自害! 死ねというのかぁ~が自害にバージョンアップしてる。ヤバい! と思いつつも、ここは静観することにした。しかし、じーじは「自害する」と言いながら家中をくるくると何かを探しながら歩き回っている。
先回りして、自害できそうなハサミや包丁を隠していると、
「自害するから介錯しろと言っているのに聞こえないのか~」と、ますますヒートアップ。「やだよ、殺人ほう助罪になっちゃうもん」と答えたところ、急に地球人の顔に戻ったじーじは、
「なに? ほうたい? そういえば、包帯はどこにある?」
「……」
ほう助が、包帯に聞こえて、一件落着(笑)。
その後、何もなかったように、朝食を食べるじーじであった。
認知症対応の5原則
(1)否定しない (2)𠮟らない (3)無視しない (4)嘲笑しない (5)バカにしない