携帯通信料金引き下げが招く円高

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過去30年間の米国民主党大統領の下では、1期目の2~3年、ドル安・円高局面となった。危機対応によるFRBの金融緩和で米国の実質金利が低下したからだ。ジョー・バイデン次期大統領下でも、同様の政策運営となる可能性が強い。一方、菅義偉首相の看板政策である携帯料金の引き下げは、日本の実質金利を引き上げ、為替の円高要因となるのではないか。

民主党大統領の経済立て直し策:ドル安誘導により自律的回復へ時間を稼ぐ

過去30年間において、米国の大統領が民主党であった期間は16年だ。このビル・クリントン、バラク・オバマ両大統領に共通しているのは、米国経済の危機的状況の下で政権を発足させた点だろう。クリントン大統領は、資産バブル後の「雇用なき回復」期、そしてオバマ大統領は、リーマンショックから4ヵ月後に就任した。経済の立て直しを迫られるなか、いずれも政権1期目の最初の2~3年間、為替市場はドル安・円高局面だったことも同様だ(図表1)。

 

期間:1993年1月~1997年1月、2009年1月~2013年1月 出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表1]民主党2大統領1期目の円/ドルレート 期間:1993年1月~1997年1月、2009年1月~2013年1月
出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

米国経済の苦境に際して、当然、FRBは金融緩和政策を採る。構造的な需要超過の米国の場合、物価が下がることは極めて稀だ。政策金利を下げれば、実質金利が低下するため、間接的に為替をドル安に誘導することが可能と言える。

 

バイデン次期大統領は、新型コロナ禍の下で第46代大統領に就任、最初の仕事として疫病の収束と経済の立て直しを迫られるだろう。政治的に見れば、再選を目指す次の大統領選挙まで3年10ヵ月の猶予があるため、まずは新型コロナ対策を最優先にするのではないか。

 

ただし、米国経済をデフレスパイラルに陥らせないため、民主党の2人の大統領の前例を踏襲することが予想される。つまり、FRBとの協調による金融緩和で為替をドル安へ誘導し、自律的な本格景気回復期まで時間を稼ぐ手法だ。

マクロ的発想なき携帯料金政策:実質金利上昇は円高要因

円/ドルレートは、概ね教科書通りに日米の実質短期金利差に連動してきた(図表2)。貯蓄余剰で供給過剰の日本経済においては、円高で輸入物価が下落すると国内経済のデフレ圧力が強まらざるを得ない。従って、日銀が政策金利を引き下げても、物価がマイナスになり実質金利が高止まりする傾向となる。その結果、日本の実質金利が米国を上回る状況が続くため、円高になるのだろう。日本にとってこのメカニズムが辛いのは、円高が日本国内のデフレ圧力を強めると、さらに円高になりデフレスパイラルに陥ることに他ならない。

 

期間:1993年~2020年10月 出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表2]日米実質金利差と円/ドルレート 期間:1993年~2020年10月
出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

この傾向が続くとすれば、菅首相の看板政策である携帯通信料の値下げは、ドル安・円高を招く可能性が強い。仮に菅内閣の実質的な圧力が奏功して携帯電話の通信料金が加重平均で20%下がると、消費者物価は単純計算で0.4%低下する。つまり、モバイル料金の引き下げは、日本の実質金利を押し上げることで円高要因となるのではないか。

 

菅首相は、実現可能で目に見えるミクロ政策の積み上げにより、国民の評価を得て、解散・総選挙の勝利を目指す戦略のようだ。もっとも、マクロ的な発想に欠けている感は否めない。その結果、ミクロ的には最適解であっても、マクロ的にはそのメリットを消して余りあるデメリットの生じる可能性がある。日米の政策は、為替を円高に導くのではないか。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『携帯通信料金引き下げが招く円高』を参照)。

 

(2020年12月4日)

 

 

市川 眞一

ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー

 

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ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。
著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。
2011年6月よりテレビ東京『ワールドビジネスサテライト(WBS)』レギュラー・コメンテーター。

著者紹介

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

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