アート思考は「何が問題か」という問いから始まる
つまりデザイン思考は、顧客の抱える問題を解決に導くためのもので「自分がどうしたいか」ではなく、「顧客のベネフィットのためにはどうすればよいか」を考えるものです。
この思考は非常に合理的で、有益であると感じる方も多いと思います。また、時間を一番大事なものとして捉える現代に合致した効率的な発想で、特に製品の改良や改善では大事な手法です。しかし、このように考えるとき、人の思考はより論理的なものになってしまうことを忘れてはいけません。論理的であるというのは大事なことですが、論理的に考える限りは、人間の思考や創造には制限がかかり、イノベーティブな発想は得られないというジレンマに陥ってしまう危険性があるからです。
ジョン・マエダの提言
デザイン思考がユーザーにとっての最適解を得るための「課題解決」型の思考であるのに対して、アート思考は「そもそも何が課題なのか」という問題をつくり出し、「何が問題なのか」といった問いから始めるのが、特徴です。
シアトル在住の日系アメリカ人のグラフィックデザイナーで、デザインとテクノロジーの融合を追求する第一人者、ジョン・マエダがある雑誌のインタビューに答えたときの言葉が印象的です。
「いま、イノヴェイションはデザイン以外のところで生じる必要がある。それを簡単にいうと、アートの世界ということになる。デザイナーが生み出すのが『解決策(答え)』であるのに対し、アーティストが生み出すのは『問いかけ』である。
アーティストとは、他の人間にとってはまったく意味をもたない大義、けれども自分にとってはそれがすべてという大義を追求するために、自分自身の安寧や命さえ捧げることもめずらしくない人種である」(『WIRED』二〇一二年)
実は、ジョン・マエダが提言するようなことが、最近デザインの世界でも起こり始めています。スペキュラティブ・デザイン(未来のシナリオをデザインし、違った視点を提示するデザイン)という概念が注目され、「問題を解決する」ことから「問題を提起する」デザインが提唱され始めているのです。
世の中の問題解決をするデザイナーの時代から、自分だけが信じる主観的な世界を世の中に問いかけていく問題提起型のアーティストの時代に変わろうとしています。今これが、答えが見えない時代における、デザインの潮流になりつつあるという現実を知っておくべきです。
秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授
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