不透明な時代はアートが思わぬ解決策を提示する
洞察力とユニークな視点
なぜビジネスパーソンは、アートを学んだほうがいいのでしょうか?
本連載をお読みいただくことで、アートとビジネスの驚くべき関係性がわかると思います。
アートは、アーティストたちの自由な発想により無限に拡大してきました。それと同様に私たちが生きる社会も産業や科学の発展により無限に拡大しています。我々人間にとってアートも社会も、時代の発展とともに変化し、広がっているのです。
アートはビジネスの世界から見れば遠い存在に思えますが、人間の営みという高みから俯瞰して見れば、少なからず共通点が浮かび上がってきます。
特に今のような不透明な時代においては、常識にとらわれないアートからのアプローチによって物事を捉え、ときに見直すことで、思わぬ解決策や新たな道が開かれるでしょう。
また、そこまでいかないまでも、幅広くアートの知識を得ることで、これまでと違う見方で社会の状況や人間の内面の変化について、学ぶことができるはずです。同時に私たちはアートを通じて、自分とは違う世界のありようを想像できるようにもなります。
ビジネスの世界では、これまで「ロジカル・シンキング(論理的思考)」や「クリティカル・シンキング(批判的思考)」がもっとも重視されてきましたが、それだけでは解決できない問題が増え続けています。例えば、資本主義自体のあり方や環境破壊、人種差別や民族紛争など、社会が進化し、テクノロジーが発達しても、社会を覆う問題は山積みです。
このように多くの社会問題を漠然と抱えながら、何が原因で、何が課題なのかも見つけづらい状況が増えています。
事業を通じて社会の課題に答え、問題を解決していくビジネスの世界も、こういった社会問題から無関係でいることはできません。これまで以上に、広い視野が求められ、社会正義に則ったビジネスへの姿勢が求められるでしょう。私のもとにも、アーティストが思考する方法に興味を持つ方々から、講演や取材などのお声がかかることが多くなっています。
本連載でお伝えするのは、単なる問題解決にとどまりません。アーティストのように思考し、イノベーティブな発想を得るための感性を鍛える具体的な方法をお伝えします。
つまり、旧来の思考法とは異なるオルタナティブな発想としての「アート思考」を身につけていくための方法論です。
「今、何が問われているのか?」「課題は何なのか?」を探っていくための思考法をアートから得ていくためには、どうすればいいでしょうか。
私が館長を務めた、直島の地中美術館と金沢21世紀美術館の両方に作品が展示されているアメリカ人アーティスト、ジェームズ・タレルは「アーティストとは、答えを示すのではなく、問いを発する人である」と述べています。
これからの時代に求められるのは、答えを引き出す力以上に「正しい問いを立てることができる洞察力とユニークな視点」です。