慶應義塾大学と東京歯科大学の合併に向けて協議を始めた。多くの人はこの合併報道に驚いたが、現役の医師は「慶應義塾大学と東京歯科大学とのこれまでの関係を知っている医療関係者は、いよいよ合併するのかと、ある程度予期していたのではないだろうか」と感想を漏らす。こうした大学の連携・統合の動きは他大学に波及し、大学の生き残り策が模索されていく可能性がある。今回の慶應義塾大と東京歯科大学の統合を現役の医師はどう見たのか。現在、連載中の「『医師の働き方改革』仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」の著者の佐藤文彦氏が緊急レポートする。

「歯学部」を取り込むメリットとデメリット

慶應義塾大学側のリスクとして考えられるのはやはり、歯科医師受難時代ということであろう。すでに歯科医師は人余りが激しく、低収入となってしまっている人も多い。歯科クリニックはコンビニエンスストアよりも数が多いことも有名な話である。そういった状況の中、慶應義塾大学として、わざわざ歯学部を持つということは、そういった問題をそのまま丸抱えすることになるため、大学運営上、これらの問題に対し、どの様に対応していくのかが注目される。

 

ただ、最近は歯学部卒業後に、必ずしも歯科医師にはならず、医学系の基礎研究者として大学に残る人なども少なからずいる。医学部がある総合大学だからこそ、そういった選択肢を得られやすく、歯科クリニック競争の凄まじいレッドオーシャン分野で働く以外の選択肢を選ぶ人材も出やすくなるのかもしれない。

 

そして、理工学部もあるため、医歯連携だけではなく、医理工連携などの研究分野にも道が広がりやすくなるであろう。ただ、実際にどの程度歯学部が加入することによって、これらの研究の幅がどの程度広がって行くのかは未知数であるし、これから慶應義塾大学がどのようなアクションを起こしていくのかは注目していきたい。

 

近年、医学部を持つ大学は、その特徴を最大限に発揮すべく、医療系学部・学科の拡充を図り始めている。慶應義塾大学は2008年に共立薬科大学と合併し、薬学部を組み入れて、すでに医療系学部のブランディング向上に成功している。今回の合併が成功すれば、日本の総合大学として初めて医学部・看護医療学部・薬学部・歯学部の医療系4学部を擁することになり、さらにそのブランディングの幅は広がることになる。

 

他大学も負けてはおらず、来春からは大阪医科大学と大阪薬科大学が合併し、大阪医科薬科大学となる。その他にも、国際医療福祉大学は成田保健医療学部 放射線・情報科学科として、放射線技師を育成したり、順天堂大学は保健医療学部として、理学療法士・診療放射線技師を育成する学科を創設など、様々な医療系の前向きなアクションが日本中で起こり始めている。

 

やはり、自前で学部や学科を創設し、学生を集め、教職員を集めることが、附属病院内での医療スタッフの人材不足解消には、非常に有効な手段なのではないだろうか。

 

そして、今回、この報道に一番ヤキモキしているのは、他大学の歯学部関係者ではないだろうか。今後、歯学部を目指すなら慶應義塾大学ということにもなるだろうし、慶應義塾大学に入れるなら歯学部もアリかなと考える高校生もいるだろう。

 

こうしたことで、ただでさえ現状苦しい思いをしている他の歯科大学が、より優秀な学生や教職員を奪われ、運営の厳しさが増していくことは、容易に想像できる。そういった意味では、今後、歯学部を取り巻く環境は厳しいため、他の歯科大学も医科大学等との連携や合併をより真剣に模索していくことになるかもしれない。

 

少子化問題が年々深刻化していく日本の中で、少々のリスクは承知でも、医療系の分野において、前向きな大学や学部の合併ということは、これからさらに増えていくであろう。

 

ただ、躊躇していると他大学に取られてしまうかもしれないリスクも大きいため、そういった意味では、今回のコロナ禍で病院運営が厳しい状況に立たされていることが、最終的な引き金となり、本格的な医療系の大学の合併の争奪戦の火蓋が、今年まさに切られたのかもしれない。

 

佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表

 

 

地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

佐藤 文彦

中央経済社

すべての病院で、「医師の働き方改革」は可能だという。 著者の医師は「医師の働き方改革」を「コーチング」というコミュニケーションの手法を用いながら、部下の医師と一緒に何度もディスカッションを行い、いろいろな施策を…

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